【神戸ソーシャルセミナーwith 森林保全 黒田慶子氏(2019.9.25)】

9月2人目のゲストは、日本の国土の約7割を占める「森林」を主なテーマに、神戸大学の黒田慶子先生にお話しいただきました。

・「里山」とは?

豊かな「森林」や「自然」と聞いて皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか?

原生林、田園風景、日本庭園・・・?そんな質問から、もともと森林総合研究所におられた黒田先生のお話は始まりました。

時と場合によりその意味が異なり、混乱のもとにもなる理由として、例えば欧米の「自然」とは「wilderness」という原野や荒野のイメージがあり、「自然保護」とはその状態をそのまま保つという意識が強いとのこと。また、「森林」の種の多様性についても日本より高緯度のヨーロッパにはその種の多様性も日本と大きく異なり、例えばドイツは日本の3分の2程度しか木々の種類がないそうです。一方、日本にはこのような原生林をイメージする場所はほとんどないそうで、千年以上前から山林を資源としての「里山」を利用しつつ持続させている歴史もあるそうです。このように一口に「自然」や「森林」といっても国や地域、時代などが違うとそのイメージも様々のようです。

「里山」とは「農用林」とよばれ、日本の森林面積の3割ほどにもなるそうで、伐採し熱源となる薪や炭、枝や落ち葉を肥料などに長年利用されてきたアカマツ林のこと。また、いわゆる「ドングリ」などが採れるコナラやカシ、シイ類の広葉樹林は「天然林」と呼ばれていますが、「自然に生えた天然の林」ではなく、人の手で植えたものだそうです。

そして、これとは別に、スギ、ヒノキなどの針葉樹林は全国平均で森林面積の4割にあたり、里山とは別の育林手法が定まった「人工林」と呼ばれるものとのこと。

○パッと見では同じ緑の山の木々も厳密にみると異なるもので、それがまた混乱を生んでいるようです…ちなみに「WOOD JOB~神去なあなあ日常~」という映画はオススメだそうです。

 

・持続可能な里山保全に欠かせない「林業」という生業

林業が劣っているわけではなく、管理しないようになっていることが近年土砂災害や倒木などの災害につながっていると黒田先生。林業は木を育てて切って、売るというまさに農作物と同じサイクルで進めていきます。そして、本来の里山は15年~30年周期で伐採・収穫しているのですが、社会の変化により1950年代からエネルギー革命により山の資源がどんどん使われなくなり、一見緑豊かな山林も良く見るとヤブ状態。効率的で、循環する資源活用の知識や経験を持っている職人は現在80代、90代の方だけになってしまっていることも日本の林業、森林保全の大きな問題だそうです。

 

・季節外れの紅葉?

一見赤茶色に紅葉しているように見える山々も良く見るとそれは松くい虫による「松枯れ」が起こっている状態かもしれません。いまから100年ほど前、日露戦争の物資輸送の梱包で使われた松の木により北米から長崎日本に入ってきたマツノマダラカミキリと呼ばれる「松くい虫」は、30~40年近く切られずに育ってしまった木々で繁殖しやすいそうです。ですので、里山を利用されなくなった1950年代から50年ほどたち、ちょうど松くい虫が繁殖しやすい太さに育った近年、2000年ごろから全国的に松枯れによる倒木問題などが顕著に出てきた、その時期と重なります。

○江戸時代の絵図を見るとその山々に生えた木々はほとんどが幹が細めのアカマツ。(その描き込みでわかるそうです)つまり人の手が入って管理された「里山」だった証拠だそうです。

 

・「木を切る=自然破壊」「木を植える=自然回復」??誤解の多い「森林保全」

本来の里山林は、植林不要。アカマツは幹を伐った後の切り株から「萌芽更新(ほうがこうしん)」と呼ばれ、芽が生え、再生するを繰り返すことができる、とても効率的な資源だそうです。一方スギやヒノキは植林が必要なのですが、これも植林ばかりではなく、きちんと間伐も行い伐って利用していかないと、森の生態系を崩してしまうことになるそうです。そうなると、イノシシやシカなどが人の住むエリアへ出てくることで獣害被害も増えてきます。木を育てて、伐って、きちんと活用することが「健康な森林」の第一歩となるそうです。また、森林に対する誤解や無知を解消するため、黒田先生は単に教育を行うだけではなく、自治体、地域、活動団体と連携しながら最近はグリーンツーリズムやジビエ等での食とつなげる活動、伐った木の加工利用など様々な取り組みも進められています。

 

<ツボの目>

実家が仏像修復をしているもので、松やヒノキには親しみがあったのですが、確かに江戸後期の仏像は松材が、しかも細かく刻まれたものが多く、その時代は木々が不足していたと聞いていました。また逆に戦国時代や江戸初期などは木材も豊富だったようで、輿石のパーツが大きなものが多いことを思い出しました。

日本の彫刻技術は仏像彫刻を中心に木彫が発展しており、そこからも木々とのつながりが深い印象です。日本の伝統工芸を持続可能にしていくためにも、森林保全の正確な取り組みが必要と感じます。

それにしても、江戸時代の寺社仏閣周りの絵図から生えている木々が見分けられるその精巧さにビックリでした!