【神戸ソーシャルセミナーwith まなびと 中山迅一氏(2019.12.04)】

12月最初のスピーカーは、まなびと理事長中山迅一さんです。SDG4「質の高い教育をみんなに」をテーマにお話を伺いました。

 

「まなびと」は神戸を拠点に地域の学び場づくりに取り組んでいる団体です。これまでどんな「学び」が生み出せたのか、どんな思いで活動されてきたのかを知りたいと会場に集まった参加者の視線にすこし気圧された様子の中山さんは、静かに話を始めていきます。

教育と地域の関係性

 

教育には携わろうと思っていたが教師になりたかったわけではありません。この道に進むきっかけはひとりの中学生との出会いです。塾にやってくるこの中3の生徒はいつまでたっても中学1年の英語のレベルを超えることができなくて、毎回同じ内容を数ヶ月教えることになり困惑しました。そのときの気づき。塾で教える1時間。それは1週間を時間に換算した1/168でしかない。問題は残りの167時間にあるのではないか。つまり授業を受ける1時間以外の残りの時間にその子を変えるきっかけがある筈。それを考えた時に頭に浮かんだ言葉が「地域」だった。地域をうまく回すことができると世の中も変わっていく、そんな予感がしました。

 

日本語が話せない在日外国人「せんせい さみちい」

 

ベトナム人の女性がいました。実はわたしが3年前に日本語を教えていた女性でしたが、再会した時Facebookで送ってきたメッセージが「せんせい さみちい」だったのです。3年経ってもひらがなでこれだけ。そして友だちもいない状況にこれまで教えてきたことはなんだったのかと考え込んでしまいました。彼女の抱える問題は、うまく日本語が話せないから日本人の友だちができない。そうなると日本語を話す機会に恵まれず上達もしないという悪循環に陥っていたこと。もしここで教師の立場なら日本語を勉強させることを考えるのだろうけど、地域で活動している自分は違う方法を思いついたのです。「日本語なんか話せなくても友だちはできる」そう彼女に声をかけて、外国人と話してみたい日本人の学生たちを集めて一緒に勉強する場をつくったところ、自己紹介を互いにできる機会が増えてとても楽しそうな時間を過ごしてくれたのです。そこで気づいた事は「教育は新しい可能性を与えてくれる。今の自分にはない可能性を開いてくれるものだ」。そして「地域の役割は、その人にしかない可能性を大切にしてくれる場」ではないか。だから「地域の役割はその人を受け入れることにある」と考えるに至ったのです。

 

*地域という場づくり、まなびとの誕生

 

そこでわたしは勉強で行き詰まった子どもが何につまずいているのか今興味をもっていることはなんだろうと、抱えている問題点に出会える場所を、コミュニケーションができる場をつくりたいと思ったのです。塾ならば先生と1対1だけれど、地域ならそこでいろんな人と関わらせることができるので、その人の中に眠っている可能性を開かせるチャンスがあると思い活動をスタートしました。教育機関の外側で地域に住む人が自分のこと、地域や社会のことを学べる場をつくろうと思い、そうしてNPOを立ち上げたのが29才の時です。

 

まなびとの理念

自ら学び、ともに学びあい、豊かな社会づくり

 

やりたいことをやって、いろんな人と関わっていけば、自然といい社会につながるはず。これが言いたかった。だから、まなびとはどんな人でもやりたいことが見つけられるという地域のまなび場なのです。

 

なぜやりたいことにスポットを当てているか、というとやりたいことが見つからないと人はその場から出ていくことができずに世界を閉じていく。孤立していく。そうするとやりたいことも見つからなくなってしまう。逆にやりたいことが見つかるとそれを通じて人と関わるチャンスが生まれる。いろんな人と関わることで、自分に対するいろんな言葉をもらうことができる。自分に対する評価などから自身を見つめ直すことで、社会に対する自分の役割というものが見えてくるのだと思います。だからやりたいことが大事なのだと、スタッフにはいつも言っています。

 

*「居場所」と「多様性」という相反する事柄を掛け合わせる

 

この2つは実は相反する価値観だと思っています。自分が安心できる場所は、単一になりがち。一方で多様性には自分の知らないことがたくさん含まれるものです。そこでいかに安心感のある多様性という場所で、自分と違うものに触れることができるかが大切で、そこに価値があると思っています。なぜこのようにやりたいことが大切だという思いに至ったか、それはわたし自身のこれまでの人生が大きく影響しています。

 

*有名大学、有名企業という人生のレールから途中下車して得たもの

 

わたしは京都大学に入学し、その後大手生保会社に入社が内定していながらも、自分がやりたいことが何か見つけられずに停滞した時期がありました。別居していた父の家で閉じこもり悶々とする生活。それでも久しぶりに同居する父は何も言わずにその時の自分を受け入れてくれました。そのままでいいと思ってくれている存在を感じて、誰かに認められるために人生を送るのではなく自分が本当にやりたいことをすることで自分も周りの人も幸せを感じることができるのだと思ったのです。

 

もう一つの出来事はその頃に行った海外でのエピソード。タイについて早々体調を壊してしまい、現地の友だちが働く店の一角でしばらく休ませてもらっていた時のことです。皆が働いている側で日本人がただ休んでいてもそのままにしてくれる。その店のボスがやってきても自然な言葉で私に声をかけて労ってくれた。なにか日本で働くことと違う概念がそこにあるように思えました。これまで有名大学を出て一流企業で働くという限られた価値観に自分も囚われていたから苦しい思いをしていたのだと気づくことができたのです。自分の幸せはいろんな人の価値観に出会うことで見つけてみたい。教育をこれからの自分の生きる道にしようとそこで思いを新たにしました。

 

*まなびとでの様々な活動内容

 

2014年任意団体として「まなびと」を設立。同年、NPO法人格に。2017年特例認定NPOとして認定団体としての試用をいただき、認定を受けるべく今に至っています。構成要員は有給スタッフが3名。スタッフが約50名。内8割強が大学生です。

事業内容は子ども向け事業と日本に住む外国人向け事業があります。現在では大学生スタッフが50名、関わっている子どもたちも週に50名くらい。外国人の方も50名くらいが活動しています。

 

 

「放課後学びスペース アシスト」

塾・学校・家庭といった既存の場所だけでは居場所を見いだせない子どもたちが安心して通うことができ、学校の勉強に限らず、人との関りの中から自分自身や社会について学べる場。

 

そこでは勉強よりもその子が何をしたいかを見つけることに価値を置いています。そこは安心して悩みを相談できるところでありたいと思っています。

 

「日本語教室だんらん」

日本に住む外国人のための日本語教室。

 

そこに集まる外国人の8割近くは日本語を話せるレベルは高いのです。でも文法はわかっているけれど日本語を使ったことがないという人たちです。ここにはもっと日本語を話す機会を得て、日本のことをもっと知りたい。文化を知りたいという人がいます。

 

「神戸こども探険隊」

神戸三宮エリアで、放課後に遊べる場所や学べる場所に困っている子どもたちが自由に遊び、学べる場所

 

ある時、「子どもたちを地域で育てることができていない。」「学習支援も大事だけど遊ぶ場所がないから楽しそうじゃない。」「礼儀も知らない」という声を聞き、週1回でもいいから遊ぶ場所をつくってみようと思い始めました。この活動は神戸市の「子どもの居場所作り事業」に認定されています。

ここでは学年が違う子どもたちが一堂に集まるので、みんなが一緒に遊べるように大学生スタッフが苦心したり、そもそも一緒に遊ばせるべきかどうかを議論したりしています。

 

「民間学童保育施設 北野くん家」

両親が共働きであるなどで、放課後一人で過ごしている子どもたちのために神戸三宮エリアで行っている学童保育事業。

 

こども探険隊の実績があって、神戸市からの要請を受けて始めた学童保育です。

 

*まなびとは何を目指しているか

 

まなびとが目指すことは、単に学童保育がやりたいわけでも日本語教室をやりたいわけでもありません。これを通じて出会える人たちと関わることで互いに学び合って、支え合うコミュニティをつくりたいのです。

 

それぞれの事業はいわば入り口。そこに入ってきた人がまなびとを知り、人と関わり混ざり合う中で、それぞれのやりたいことを見つけてもらえばいい。そんな場づくりをやっています。

 

そのほかにも単発で行なっている事業もあります。最近では日本にやってきたばかりの外国人向けに日本語学校の出張授業をおこなったり、外国人のボランティア部をつくり地域での役割を見つけようとしたりしています。一例を挙げると、これから日本に住もうとしている外国人の後輩に生活情報を届けようと、コンビニのポットの操作、どのボタンを押せばお湯が出るかを情報提供したりしています。

 

*まなびとのこれから

 

この秋に外国人と大学生でキャンプに行きました。みんなと重ねられる時間が長いし、遊んだり料理をしたりして一緒に時間を過ごすことで成果を共有できる。同じ体験をすることで絆を深めることに価値があります。これからは、いろんな人と一緒にキャンプすることができたらいいなと思っています。

 

わたしたちの活動はすごくいいプログラムを持っているわけでもありません。ごくごく当たり前のことをしているだけで、多分どこでもできることです。日本中どこでもできるような当たり前のことですが、ここからでないとやりたいということが生まれてこないと思っています。(中山さんのセミナーここまで)

 

 

<ネーミングライターは何を感じたか>

今回のレポートを担当しています。日頃は企業を相手に新規事業や新商品のネーミングをしたりする立場ですが、NPOとして地域に貢献する方々のお話を聞くのは私の脳の新たな部位を刺激してくれました

中山さんのトークに一番多く出てきた単語は「地域」。その言葉は時に「教育」と二軸で相関する意味合いで語られています。中山さんが語る地域という言葉には、二本足で歩行する人格を与えているような感覚を受けました。確かに教育現場という限られたスペースから180度体をひねり外を見れば無限の可能性があるのかもしれない。地域という様々な人を惹きつける磁場があれば、あまねく人はより成長することができるのだろう。セミナー終了後に参加者から質問が集まった。中山さんのゴールイメージは?という問いかけに、ひたすら入り口づくりに徹するというような答えがかえってきた。事業を大きくして全国に広げる、というような予想された回答を見事に裏切ってくれた。これまで日本が抱えてきた成長志向に乗り損ねている多くの人の存在に焦点をあて、中山さんは大きな丸い磁場をつくろうとしているのだ。でもそれはおそらく「地域」という言葉で言い尽くすことができない。いつかもっとふさわしい言葉がこのような集まりの中のどこからか生み出される、そんな予感がした。(洛林舎)