【神戸ソーシャルセミナーwith WHO神戸センター 茅野龍馬氏(2019.12.11)】

12月二人目のスピーカーとしてお迎えしたのは、WHO神戸センターで健康危機管理担当医官として働く茅野龍馬さんです。SDG3「すべての人に健康と福祉を」をテーマに、参加者との間でWHOの仕事とSDGsについてインターアクティブに話し合う場となりました。

茅野さんは、国際保健という観点から「なんでSDGsが生まれたのか」「その前にあったMDGsから世界がどう変わって、今我々はSDGsをどうして目指しているのか」についてわかりやすい言葉で解説を始めていきます。

 

*世界保健デー(WHOの設立日である4月7日にグローバルヘルスの重要課題を取り上げる)の2018,2019年のテーマはUHC(ユニバーサルヘルスカバレッジ)

これはすべての人に適切な質の医療を適切な価格で届ける、という概念です。

これを世界中の全ての国の全ての人に届けることがSDGsのキモになると我々は考えています。

 

*WHOが掲げている3つの目標。

1)10億人のUHC 、2)健康危機から守る(感染症のアウトブレイク、災害などから人々を守る)、3)健康増進(高齢者、障害者など)

 

*WHOの組織について

各国に保健省を支援する形で存在している組織が世界中で150箇所くらい。ただ、日本やアメリカ、西ヨーロッパ諸国等にはその組織はありません。なぜかというとそれらの国はWHOの助けが途上国ほど必要ではないからです。それらの組織を6つの地域に分けて束ねて、全体を統括しているのがスイス・ジュネーブにあるヘッドクォーター(本部)です。

ではここ神戸センターはどんな役割をするかと言えばちょっと特殊な組織でして、世界で唯一のWHO本部直轄の政策研究をするセンターです。UHC/高齢化/健康危機管理についての政策を作っていくための研究をするところになります。

 

*SDGsを考える上でのキーワード「グローバルとインターナショナルの違い」

グローバルとはglobe、地球のこと、そこに国境は関係ありません。インターナショナルというのは国 (nation)と国 (nation)との間柄(inter)を考える。国際はいい翻訳ですね。国があって国境があってそれぞれの利害関係を調整しながらその「際(きわ)」を考える。このグローバルという言葉の意味を考える必要があります。

 

*グローバル化している「経済」、していない「保健」

経済は今ほぼ世界中で繋がっていると言えます。どの国にいっても経済活動をある程度同じルールでできるようになっていて、日本人が外国で会社を作ることもできる。その意味で経済はグローバル化しています。でも保健領域は比較的グローバル化していません。国どうしの間に貧富の差があり、貧しい国に対して富んでいる国が保健の問題で補填する仕組みはまだまだ整備ができていません。

 

2000年はMDGs が生まれた、大きな意味を持つ年です。経済成長で国家間に大きな格差が生まれた中で、先進国を中心とした世界のリーダーが、世界の問題は自分たちの問題として考えて底上げしていこうとサミットで話し合いました。その結果、開発分野における国際社会共通の目標(ミレニアム開発目標)ができたのです。

そうして掲げられたMDGs目標8つのうち、3つが保健領域です。「幼児死亡率の削減」「妊産婦の健康改善」「HIVマラリア結核などの蔓延防止」

 

国際社会はこの取り組みの中で、GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)を作りました。ワクチンが高くて買えずにそのせいで死んでいく子どもたちがたくさんいることから考えられたシステムです。お金を持っている国や人からたくさんお金を集めてワクチンを買って、配る。シンプルな仕組みですが、その効果は極めて大きく、GAVIは21世紀の大きな進歩のひとつです。

 

また世界エイズ・ 結核・ マラリア対策基金(グローバルファンド)もこの時創出されました。

これらの取り組みの結果として2002年に30万人ほどしか行き渡らなかったエイズの薬は、たった6年で400万人に届くようになりました。これが公衆衛生の力です。政策を変えることによって社会を変えることができるのです。それは、エイズ・結核・マラリアという3大感染症から2000万人の人を救ってきたのです。

 

格差があっても、そこに富を再分配する仕組みがあれば、食べ物や水や薬がなくたくさんの人が死んでいた状況を変えることができる。それがこれらの領域で可能になったのが、MDGsの生まれた21世紀初めのこと。MDGsは結構がんばって達成してきたのだと思います。

 

 

*MDGsからSDGsへ

今はどうでしょう。保健の問題が全部解決したのかというとそうではありません。新たな問題が出てきました。「グローバル化と高齢化」です。ここで世界がグローバル化している、という問題と関係してくるのです。

 

*感染症という脅威

2016年にはMERSという病気が流行りました。もともとサウジアラビアにあったラクダの病気です。ラクダとその側にいる人しか伝染らない病気だったのですが、観光客が訪れラクダに乗ったり肉を食べたりして感染するようになりました。そして一人の韓国人がサウジアラビアで感染しました。彼が自国に戻ったあと発症したことで韓国内で100人以上の人が伝染して、30人以上が死亡したということがあったのです。ショッキングな出来事でした。

 

*世界中の空を飛ぶ無数の飛行機のLIVE映像

この動画何を意味しているかわかりますか?

この小さな黄色く移動する点は飛行機です。24時間365日こうして人や物があらゆる移動を繰り返しているという動画です。

https://ja.flightaware.com/live/

 

これがグローバル化した社会です。感染症を考えるときに潜伏期間ということがあります。大体2日間から1週間ぐらい。昔船とか陸路でしか人が移動できなかった頃は、港や国境で危ない病気を防ぐことができたのですが、今飛行機に乗れば菌を保有したままわずか2日間ぐらいで国境を簡単に超えてしまうのです。そして国境を突破してから発症してしまう。これに関してどう対処できるか?これが難しいのです。皆さんいいアイデアないですか?

 

*IHR国際保健規則

国境を超えて入ってきてしまうのは仕方ない。そこで病気が見つかったらみんな同じルールで対策を立てようという規則です。危ない病気がコントロール効かないくらいに流行りそうな時は、緊急事態宣言を出して、すべての国が同じようにルールに従って行動する。ちゃんとWHOに報告して情報共有し、それに従っていろんな対策を講じていこうとするものです。

 

たとえばエボラ出血熱。非常に危ない病気です。ギニア、シエラレオネなどで発生しました。でも封じ込められずに国中に広がった。非常事態を宣言したけどすぐには事態が収拾しなかった。なぜか?規則を実践するキャパシティが不足していたことが大きな要因と考えられています。ルールがあってもそれを実践する国や組織がないと意味をなさない、それが今のもう一つの課題です。

 

*都市化と健康格差という問題。

今世界の多数派は都市部に住んでいます。1960年ごろは若者は都市部に出るけれど人口の70%ぐらいが田舎に住んでいました。それが2010年に逆転しました。多くの人が都市部に住み、密集して暮らしているのです。

*どれくらい世界は高齢化しているか

2015年の時点で人口の30%が60歳以上という国は世界で一つだけ。日本です。それが2020年になると、ドイツとイタリアが追いつき、2025年フィンランド、スペイン、ポルトガルもそうなると言われています。昔は高齢化になるのは長生きできる国=お金持ちの国だけと思われてきたが今は違います。すべての国で高齢化は起こっています。

結果として平均寿命は全ての国で右肩上がりに伸びています。バングラデシュの平均寿命は30年前はまだ50代でした。それが今はもう70歳超えています。世界全体の平均年齢も70歳を超えています。

 

*世界の人が長生きできるようになるとどうなるか

不健康な食生活で生まれる生活習慣病。これが今世界中で起きているのです。今世界の主要な死因はガン、脳卒中、心臓病です。

 

2015年WHOはこれが世界の課題だと言って、高齢化と世界の健康についてのワールドレポートを出しました。WHOはこのレポートの中で非常に大事なことを言っています。それは何かというと、「高齢化に対してどう向き合うか」ということです。

 

歳をとると病気になってお金がかかる、そんなことを耳にしたことがありませんか?高齢化のせいで医療費がかさみ経済が破綻する。だから高齢者や認知症患者はお荷物だという言い分です。でもWHOはそれは大きな間違いだと言っています。

 

加齢に対する意識を変革しましょう。「高齢者に対する出資は投資であってコストではない。」これは非常に強いメッセージです。

2011年英国の研究で、高齢者にかかる年金、福利、医療費などのコストを算出し、そこに高齢者がどれくらい個人消費し、税金を納めているのかを比べてみると、6兆円プラスであることがわかった。これが2030年には12兆円になることが予想されました。高齢化対策には確かにお金がかかる。でもそれによってもっと大きな富を生み出しているのだということです。

 

*「全ての人に健康と福祉を」

全ての年齢の人に優しい社会を作っていきましょうというのがWHOのメッセージです。MDGsの時は世界は今よりシンプルでした。貧乏とお金持ちの格差がありその間をつなぐものが足りなかった。そのリソースをどうやって動かすかが大きなテーマでした。たくさんの努力の結果、世界は大きく進歩し、そして複雑になりました。みんながある程度長生きするようになりましたが、環境汚染も高齢化も進みました。対策も色々難しくなりました。グローバル化は進みます。その複雑な社会を複雑に解決しましょうというのがSDGsなのです。17個もテーマがあります。それは大変です。

 

そうした中でWHOは「健康な生活を保障し、全ての年齢層の全ての人々の良い暮らしを推進していく」ということを目指しています。私の話が皆さんにとって何かしら参考になればと思います。ありがとうございました。(茅野さんのセミナーここまで)

<ネーミングライターは何を感じたか>

今回のレポートも担当しています。SDGsの前身MDGsが生まれたのが2000年、わずか20年前の状況が、今と比べると単純だったとはかなり驚きました。複雑化する時代の複雑な課題を他人事にせずに受け止めること。それは国連でありWHOの仕事だとして、私たちが考えることを止めてしまうわけにはいかない。伝染病が蔓延してしまうのは困るけど、心身ともに健康であるために世界中が迅速に支え合う社会に変革することは歓迎したいと思った。医師でもある茅野さんは、いわば地球の健康を守るための医療を施している人なのだ。セミナー後参加者からは様々な意見が寄せられた。茅野さんは一人一人の言葉に耳を傾け「その通りです」と受け止めている。それは白衣姿で患者にまっすぐ向き合い、問診しながら治療法を考えている医師のようであり、その言葉と姿がとても印象に残っている。(洛林舎)