【神戸ソーシャルセミナーwith神戸大学大学院工学研究科教授 喜多隆(きたたかし)氏 (2020.02.26)】

2月の神戸ソーシャルセミナーのテーマは、SDGs7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」です。

次世代太陽電池などの研究が進む神戸大学工学部の喜多先生に、日本のエネルギー政策の状況から再生エネルギーの未来について語っていただきました。(セミナーここから)

 

今年2月から神戸大学のSDGs担当学長補佐になりました。まずは神戸大学のSDGsに対する取り組みからお話したいと思います。5つの柱があります。

(1) 新しい技術・産業・社会の創出

(2) V.スクール:携帯電話がスマートフォンに変わったように、昔からあった技術を少し視点を変えることでイノベーションを起こす。そんな価値創造がどうやって生まれるか、それを研究していこうというものです。

(3) 国際協力:64カ国373大学と学術交流協定を結んでいます。

(4) 地域/自治体との連携:スマートシティ、水素の話、地下街の空調AIなど、町の作り方を自治体と一緒に考えていくようにします。

(5) 学生アンバサダー:インターンシップとして取り組んでもらっています。

 

*日本のエネルギーの状況

日本のエネルギー問題を見通すための、3つのポイント。

  • 日章丸事件

これは出光がはじめてイランから石油を買ったという事件で、「海賊と呼ばれた男」で有名な話です。日章丸とはタンカーの名前です。ペルシャ湾ホルムズ海峡をイギリスが封鎖した際に、日本のタンカーがその封鎖を突破してイギリスの植民地だったイランと独自に交渉し石油を持ち帰ったのです。中東で日本の信頼が高いのはこのことに起因します。出光佐三は神戸大学出身で、校内には出光記念講堂があります。この事件以降、日本では石油需要が増えていきます。

  • オイルショック

中東の政情不安によって石油が入ってこなくなった事件です。ここを起点に天然ガス、原子力が増えています。

  • 東日本大震災

震災が起こる前までの日本は、原子力、LNG、石油、石炭エネルギーの使用がほぼ均等だったのです。これをエネルギーミックスとよぶのですが、震災後原子力が止まり、電力需要を天然ガスが補っています。また石炭需要も増え、そこから発生するCO2の排出が国際問題になっています。

 

*世界のエネルギー事情

<エネルギー構成分布図>

※詳細は「IEA“Key World Energy Statistics 2017”」

東アジアは石炭石油の比率が高いですね。(中国:石炭・石油計70%強、インド:同75%程度、インドネシア・同65%程度など)アイスランド、ノルウエーはほぼ再生可能エネルギー(水力、地熱、太陽光、太陽熱、風力、潮力、バイオマス等)100%。よくやっていますね。日本はエネルギーミックスがある程度とれている状況です。特徴的なのはフランス。原子力の比率が非常に高い(全体の75%程度)です。その分CO2の発生は少ないです。再生エネルギーを推進しているドイツは環境意識が高いといわれています。でもフランスから電気を買っており、未だ原子力の力を借りていることになります。大陸でつながっているとこういうことができるのですが、日本の場合は島国で孤立しているため外からエネルギーをもってこないといけないことも覚えておいてください。

<一人当たり電力消費量>

※世界平均:2.97MWh/Capita。日本7.75MWh/Capita

アイスランド(53.16MWh/Capita)、ノルウエー(23.65MWh/Capita)のように北欧の国はめちゃくちゃ電気つかっているのがわかります。これはヒーターによるものですね。CO2を出さないように再生エネルギーでつくった電気でヒーターを動かしているのです。薪で火を焚くということはもうしないのです。進んだ国です。我々が学ぶところがたくさんあります。

<再生エネルギー利用率をみると日本は?>

アイスランドは90%近く。すごいですね。ドイツで10%、日本は4%です。

でも絶対量がわからない。

<再生エネルギー算出量>の順で見てみると

(日経新聞2014年10月13日朝刊より喜多先生作成)

アメリカが一位。カナダ、ドイツと続き、実は日本は6位です。(2014年データ) 今はイタリア抜いてさらに上位になっています。

このように絶対量で見ると、小さな国土の日本もがんばっているのです。

 

*再生エネルギーが抱える課題

再生可能エネルギーは自然の力を活かしたクリーンなエネルギーです。しかし、エネルギー全体の数パーセントしか賄えていません。なぜかといえば、設備利用効率が問題となるのです。

太陽光発電では夜は発電できません。おまけに曇りや雨が降る日中も無理です。最終的に設備利用効率は12%程度。これが一番大きな問題です。水力発電も雨が降らないでダムに水がたまらないとどうしようもない。風力発電も風が止んでしまえば発電しません。効率も20%。水力発電が昔から利用されているのは稼働率45%だからです。それにくらべると原子力は70%あります。設置すればほぼほぼ回収できる。同じお金を投資してもリターンされる費用が変わってくる。経済的に考えると、石炭、原子力に目がいってしまう。これが再生可能エネルギーの導入がはばかれている理由です。

*太陽光発電がほかのエネルギーと違う点。

実はほかの発電方式はすべてモーターを回しています。石油なら燃やしてモーターを回すことで発電する。原子力もお湯を沸かしそのスチームでタービンを回すことで発電しています。太陽光発電だけは回す必要がない。回すものがないのです。

そこがユニークであり、魅力的なところです。モーターを回さないから騒音も出ません。家の屋根にのせて発電する事もできてしまうということです。

*太陽光エネルギーは1平方メートルあたり約1キロワット

すごいでしょ。今の世界のエネルギー消費量で比較すると、地球に注ぐ1時間の太陽光エネルギーの量がちょうど世界で我々が使うエネルギーの総量に匹敵するといわれています。極端なことをいえば、地球全体の面積1%に変換効率10%の太陽光発電装置を設置すれば、すべての電力をつくることができることになります。どこにつくるんだという話はありますが(笑)

*太陽光発電コストは安くない

原子力発電所を1基作る費用は3000億円です。その原発1基での発電量は1000メガワットといわれていますが、これはメガソーラー1000個分に相当します。実はメガソーラー1基つくるのに2.5億かかるのです。だからほぼ同じぐらいのコストになる。太陽光発電は決して安くありません。

では何が高いのか。太陽光発電の費用でパネルはそれほど費用がかかるものではありません。生み出した直流の電気を生活に使うためには交流に変換しないとといけない。この変換に結構なコストがかかります。さらに家庭で発電した電気を売る、買うという時には、エネルギーバランスを調整する機械が必要になります。

 

*エネルギー需給バランスと再生エネルギーの相関

(経済産業省 資源エネルギー庁webサイト「エネルギーの今を知る10の質問」より)

 

電力需要ラインは朝日とともに上昇、一旦昼に下がりまた上がって、夜になる。この曲線はアヒルに似ているのでダックカーブといわれています。グリーンのラインが太陽光。火力発電がバックアップ電源。つまりクイックな発電で電力需要ラインを「抑制」「焚き増し」と調整しないといけない。曇りの日は太陽光発電だけで電力をつくれないので、足りない分をバックアップ電源で電力を供給しないといけない。どうしても火力発電が伴います。太陽光発電を推進するには、CO2を発生させる火力発電も導入せざるを得ないことになる。ちょっとここが問題。

ベースロード(長期固定)電源。これはクイックには動かない発電装置ですがここはCO2を排出しないのでここを押し上げていけばいいと政府が考えています。すると今度は太陽光発電をあまり推進してはダメとなる。2018年九州電力で太陽光発電の出力を制御することがありました。電力の需給バランスが崩れると最悪停電を起こしたりするのです。

 

*太陽光の降り注ぐ場所と、人間が居住する地域

太陽の日照量は地域によってかなり差があり、日本は中間にあたりオーストラリアや北アフリカ、や南部アフリカの砂漠となっている地域は非常に日照量が多い地域です。ここに太陽光発電を設置すればいいのですが。こういう所にはあまり人は住んでいません。ここで、「夜の世界地図」を見てみると、東部アメリカ、ヨーロッパインド、そして中国東部、日本と日照量の比較的少ない地域に夜の明かりが集まっています。これは人が居住していることを示しています。逆になっていますね。つまり人間にとって生活しやすい涼しい場所に住んでいるのです。

結局太陽光がよく採れる地域で発電しても、人が住んでいる地域に電気を運ぶ必要が起こります。電気のエネルギーを何かに蓄えて運ぶということが必要です。方法のひとつはバッテリーにチャージする。神戸市が行なっているように水素に変えることもひとつ。電線で運ぶということもありますが日本は島国なのでオーストラリアからは運べない。ドイツはフランスから電気を買っていますが陸続きなのでいとも簡単にできるのです。

(※日照量に関する分布はmeteonormのデモページ「World – Yearly sum of Direct Normal Irradiation (DNI) (1991 – 2010), grid cell: 0.125°」参照

https://meteonorm.com/en/demo-files-maps

※「夜の世界地図」に関しては下記Flickerのサイトをご参考ください。

https://www.flickr.com/photos/luanrsantos/2055141566/

電気を水素にするとは何か。水に電圧を加え電気分解します。水から水素を発生させるのです。その効率は8割です。その水素をもう一度電気に変える。今度は効率5割になります。たとえばオーストラリアで電気を水素に変えて日本にもち帰り、もう一度電気に戻す。つまり8割の5割で元の電気からすると4割になってしまいます。だから20パーセントの太陽電池を使うと8パーセントの効率になる。どうしてわたしが高効率の電池の研究を目指しているかがここのポイントです。

仮に50パーセントの太陽電池ができたとすると、移動した先で4割の20パーセントの電気を利用することができる。今市販の太陽光電池の変換効率が約20パーセントなのでほぼ同じ効率となる。そこで50パーセントの効率の太陽光電池をつくることが、わたしの研究におけるひとつのモチベーションになっています。

*高効率の太陽光発電の研究

太陽光発電の歴史。1839年、金属に光をあてると発電することをフランスのベクレルが発見しました。1883年には、セレンという毒物で発電することをアメリカのフリッツが発見。1954年Bell研究所がシリコン太陽電池を発明しました。今ではいろんな太陽電池が生まれています。私が研究しているガリウム砒素という毒物が入った太陽電池は変換効率がいい電池です。1974年シャープが太陽電池で動く電卓を開発。サンヨーはアモルファスシリコン電池といって瓦屋根のような曲面の太陽電池をつくりました。最近では人工衛星に搭載する高性能な多接合型集合太陽電池というものがあります。

効率の良い太陽電池ということでは、レンズでしぼる太陽光発電があります。光を全方位から取り込むと変換効率も上がる。レンズでしぼれば効率も40%まで上がり、使う半導体も少なくてすむ。ただ問題は常に太陽光を集める向きにパネルを追随しないといけない。そのために電気を使い、設備も大きくなってしまうのです。

 

わたしの研究は「太陽電池に利用する量子ドットの作成」です。効率よく太陽光を集めることができる高価な装置が神戸大学にあります。ヒ素をつかうと波長が長くなることがわかっており、この装置を使い、いろんな材料を積み重ねてエネルギーをいかに吸収するかを研究しています。機会があれば大学を見学してもらえるようにしたいと考えています。本日はありがとうございました。(喜多さんのセミナーここまで)

 

<ネーミングライターは何を感じたか>

国際社会においてSDGs、つまり持続可能な未来のために日本が何をすべきか、何をしているのかを主張することはとても重要である。エネルギー政策においてもしかり。ただし、原子力、再生エネルギー、CO2問題。複雑にそれらは絡み合っている。石油、石炭などの有限資源も自然エネルギーもそれだけでは万能ではないということをセミナーで知った。ついつい無力感に行き着いてしまうところだが、喜多先生はバックキャストの発想が大切だと質疑時間の中で語る。未来起点で少し無理レベルの目標を定める。そうすることで今までにない発想が生まれゴールへのルートを見つけることになるというものだ。今ある限界を創造的に破壊するための柔軟性を説く神戸大学のV.スクール活動のこれからに注目していきたい。(洛林舎)