【神戸ソーシャルセミナーwith神戸大学大学院工学研究科教授 喜多隆(きたたかし)氏 (2020.02.26)】

2月の神戸ソーシャルセミナーのテーマは、SDGs7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」です。

次世代太陽電池などの研究が進む神戸大学工学部の喜多先生に、日本のエネルギー政策の状況から再生エネルギーの未来について語っていただきました。(セミナーここから)

 

今年2月から神戸大学のSDGs担当学長補佐になりました。まずは神戸大学のSDGsに対する取り組みからお話したいと思います。5つの柱があります。

(1) 新しい技術・産業・社会の創出

(2) V.スクール:携帯電話がスマートフォンに変わったように、昔からあった技術を少し視点を変えることでイノベーションを起こす。そんな価値創造がどうやって生まれるか、それを研究していこうというものです。

(3) 国際協力:64カ国373大学と学術交流協定を結んでいます。

(4) 地域/自治体との連携:スマートシティ、水素の話、地下街の空調AIなど、町の作り方を自治体と一緒に考えていくようにします。

(5) 学生アンバサダー:インターンシップとして取り組んでもらっています。

 

*日本のエネルギーの状況

日本のエネルギー問題を見通すための、3つのポイント。

  • 日章丸事件

これは出光がはじめてイランから石油を買ったという事件で、「海賊と呼ばれた男」で有名な話です。日章丸とはタンカーの名前です。ペルシャ湾ホルムズ海峡をイギリスが封鎖した際に、日本のタンカーがその封鎖を突破してイギリスの植民地だったイランと独自に交渉し石油を持ち帰ったのです。中東で日本の信頼が高いのはこのことに起因します。出光佐三は神戸大学出身で、校内には出光記念講堂があります。この事件以降、日本では石油需要が増えていきます。

  • オイルショック

中東の政情不安によって石油が入ってこなくなった事件です。ここを起点に天然ガス、原子力が増えています。

  • 東日本大震災

震災が起こる前までの日本は、原子力、LNG、石油、石炭エネルギーの使用がほぼ均等だったのです。これをエネルギーミックスとよぶのですが、震災後原子力が止まり、電力需要を天然ガスが補っています。また石炭需要も増え、そこから発生するCO2の排出が国際問題になっています。

 

*世界のエネルギー事情

<エネルギー構成分布図>

※詳細は「IEA“Key World Energy Statistics 2017”」

東アジアは石炭石油の比率が高いですね。(中国:石炭・石油計70%強、インド:同75%程度、インドネシア・同65%程度など)アイスランド、ノルウエーはほぼ再生可能エネルギー(水力、地熱、太陽光、太陽熱、風力、潮力、バイオマス等)100%。よくやっていますね。日本はエネルギーミックスがある程度とれている状況です。特徴的なのはフランス。原子力の比率が非常に高い(全体の75%程度)です。その分CO2の発生は少ないです。再生エネルギーを推進しているドイツは環境意識が高いといわれています。でもフランスから電気を買っており、未だ原子力の力を借りていることになります。大陸でつながっているとこういうことができるのですが、日本の場合は島国で孤立しているため外からエネルギーをもってこないといけないことも覚えておいてください。

<一人当たり電力消費量>

※世界平均:2.97MWh/Capita。日本7.75MWh/Capita

アイスランド(53.16MWh/Capita)、ノルウエー(23.65MWh/Capita)のように北欧の国はめちゃくちゃ電気つかっているのがわかります。これはヒーターによるものですね。CO2を出さないように再生エネルギーでつくった電気でヒーターを動かしているのです。薪で火を焚くということはもうしないのです。進んだ国です。我々が学ぶところがたくさんあります。

<再生エネルギー利用率をみると日本は?>

アイスランドは90%近く。すごいですね。ドイツで10%、日本は4%です。

でも絶対量がわからない。

<再生エネルギー算出量>の順で見てみると

(日経新聞2014年10月13日朝刊より喜多先生作成)

アメリカが一位。カナダ、ドイツと続き、実は日本は6位です。(2014年データ) 今はイタリア抜いてさらに上位になっています。

このように絶対量で見ると、小さな国土の日本もがんばっているのです。

 

*再生エネルギーが抱える課題

再生可能エネルギーは自然の力を活かしたクリーンなエネルギーです。しかし、エネルギー全体の数パーセントしか賄えていません。なぜかといえば、設備利用効率が問題となるのです。

太陽光発電では夜は発電できません。おまけに曇りや雨が降る日中も無理です。最終的に設備利用効率は12%程度。これが一番大きな問題です。水力発電も雨が降らないでダムに水がたまらないとどうしようもない。風力発電も風が止んでしまえば発電しません。効率も20%。水力発電が昔から利用されているのは稼働率45%だからです。それにくらべると原子力は70%あります。設置すればほぼほぼ回収できる。同じお金を投資してもリターンされる費用が変わってくる。経済的に考えると、石炭、原子力に目がいってしまう。これが再生可能エネルギーの導入がはばかれている理由です。

*太陽光発電がほかのエネルギーと違う点。

実はほかの発電方式はすべてモーターを回しています。石油なら燃やしてモーターを回すことで発電する。原子力もお湯を沸かしそのスチームでタービンを回すことで発電しています。太陽光発電だけは回す必要がない。回すものがないのです。

そこがユニークであり、魅力的なところです。モーターを回さないから騒音も出ません。家の屋根にのせて発電する事もできてしまうということです。

*太陽光エネルギーは1平方メートルあたり約1キロワット

すごいでしょ。今の世界のエネルギー消費量で比較すると、地球に注ぐ1時間の太陽光エネルギーの量がちょうど世界で我々が使うエネルギーの総量に匹敵するといわれています。極端なことをいえば、地球全体の面積1%に変換効率10%の太陽光発電装置を設置すれば、すべての電力をつくることができることになります。どこにつくるんだという話はありますが(笑)

*太陽光発電コストは安くない

原子力発電所を1基作る費用は3000億円です。その原発1基での発電量は1000メガワットといわれていますが、これはメガソーラー1000個分に相当します。実はメガソーラー1基つくるのに2.5億かかるのです。だからほぼ同じぐらいのコストになる。太陽光発電は決して安くありません。

では何が高いのか。太陽光発電の費用でパネルはそれほど費用がかかるものではありません。生み出した直流の電気を生活に使うためには交流に変換しないとといけない。この変換に結構なコストがかかります。さらに家庭で発電した電気を売る、買うという時には、エネルギーバランスを調整する機械が必要になります。

 

*エネルギー需給バランスと再生エネルギーの相関

(経済産業省 資源エネルギー庁webサイト「エネルギーの今を知る10の質問」より)

 

電力需要ラインは朝日とともに上昇、一旦昼に下がりまた上がって、夜になる。この曲線はアヒルに似ているのでダックカーブといわれています。グリーンのラインが太陽光。火力発電がバックアップ電源。つまりクイックな発電で電力需要ラインを「抑制」「焚き増し」と調整しないといけない。曇りの日は太陽光発電だけで電力をつくれないので、足りない分をバックアップ電源で電力を供給しないといけない。どうしても火力発電が伴います。太陽光発電を推進するには、CO2を発生させる火力発電も導入せざるを得ないことになる。ちょっとここが問題。

ベースロード(長期固定)電源。これはクイックには動かない発電装置ですがここはCO2を排出しないのでここを押し上げていけばいいと政府が考えています。すると今度は太陽光発電をあまり推進してはダメとなる。2018年九州電力で太陽光発電の出力を制御することがありました。電力の需給バランスが崩れると最悪停電を起こしたりするのです。

 

*太陽光の降り注ぐ場所と、人間が居住する地域

太陽の日照量は地域によってかなり差があり、日本は中間にあたりオーストラリアや北アフリカ、や南部アフリカの砂漠となっている地域は非常に日照量が多い地域です。ここに太陽光発電を設置すればいいのですが。こういう所にはあまり人は住んでいません。ここで、「夜の世界地図」を見てみると、東部アメリカ、ヨーロッパインド、そして中国東部、日本と日照量の比較的少ない地域に夜の明かりが集まっています。これは人が居住していることを示しています。逆になっていますね。つまり人間にとって生活しやすい涼しい場所に住んでいるのです。

結局太陽光がよく採れる地域で発電しても、人が住んでいる地域に電気を運ぶ必要が起こります。電気のエネルギーを何かに蓄えて運ぶということが必要です。方法のひとつはバッテリーにチャージする。神戸市が行なっているように水素に変えることもひとつ。電線で運ぶということもありますが日本は島国なのでオーストラリアからは運べない。ドイツはフランスから電気を買っていますが陸続きなのでいとも簡単にできるのです。

(※日照量に関する分布はmeteonormのデモページ「World – Yearly sum of Direct Normal Irradiation (DNI) (1991 – 2010), grid cell: 0.125°」参照

https://meteonorm.com/en/demo-files-maps

※「夜の世界地図」に関しては下記Flickerのサイトをご参考ください。

https://www.flickr.com/photos/luanrsantos/2055141566/

電気を水素にするとは何か。水に電圧を加え電気分解します。水から水素を発生させるのです。その効率は8割です。その水素をもう一度電気に変える。今度は効率5割になります。たとえばオーストラリアで電気を水素に変えて日本にもち帰り、もう一度電気に戻す。つまり8割の5割で元の電気からすると4割になってしまいます。だから20パーセントの太陽電池を使うと8パーセントの効率になる。どうしてわたしが高効率の電池の研究を目指しているかがここのポイントです。

仮に50パーセントの太陽電池ができたとすると、移動した先で4割の20パーセントの電気を利用することができる。今市販の太陽光電池の変換効率が約20パーセントなのでほぼ同じ効率となる。そこで50パーセントの効率の太陽光電池をつくることが、わたしの研究におけるひとつのモチベーションになっています。

*高効率の太陽光発電の研究

太陽光発電の歴史。1839年、金属に光をあてると発電することをフランスのベクレルが発見しました。1883年には、セレンという毒物で発電することをアメリカのフリッツが発見。1954年Bell研究所がシリコン太陽電池を発明しました。今ではいろんな太陽電池が生まれています。私が研究しているガリウム砒素という毒物が入った太陽電池は変換効率がいい電池です。1974年シャープが太陽電池で動く電卓を開発。サンヨーはアモルファスシリコン電池といって瓦屋根のような曲面の太陽電池をつくりました。最近では人工衛星に搭載する高性能な多接合型集合太陽電池というものがあります。

効率の良い太陽電池ということでは、レンズでしぼる太陽光発電があります。光を全方位から取り込むと変換効率も上がる。レンズでしぼれば効率も40%まで上がり、使う半導体も少なくてすむ。ただ問題は常に太陽光を集める向きにパネルを追随しないといけない。そのために電気を使い、設備も大きくなってしまうのです。

 

わたしの研究は「太陽電池に利用する量子ドットの作成」です。効率よく太陽光を集めることができる高価な装置が神戸大学にあります。ヒ素をつかうと波長が長くなることがわかっており、この装置を使い、いろんな材料を積み重ねてエネルギーをいかに吸収するかを研究しています。機会があれば大学を見学してもらえるようにしたいと考えています。本日はありがとうございました。(喜多さんのセミナーここまで)

 

<ネーミングライターは何を感じたか>

国際社会においてSDGs、つまり持続可能な未来のために日本が何をすべきか、何をしているのかを主張することはとても重要である。エネルギー政策においてもしかり。ただし、原子力、再生エネルギー、CO2問題。複雑にそれらは絡み合っている。石油、石炭などの有限資源も自然エネルギーもそれだけでは万能ではないということをセミナーで知った。ついつい無力感に行き着いてしまうところだが、喜多先生はバックキャストの発想が大切だと質疑時間の中で語る。未来起点で少し無理レベルの目標を定める。そうすることで今までにない発想が生まれゴールへのルートを見つけることになるというものだ。今ある限界を創造的に破壊するための柔軟性を説く神戸大学のV.スクール活動のこれからに注目していきたい。(洛林舎)

【神戸ソーシャルセミナーwith神戸市水道局 児玉成二(こだませいじ)氏 (2020.01.29)】

1月二人目の神戸ソーシャルセミナーのスピーカーとして、神戸市水道局から児玉さんにお越しいただきました。SDGs6「安全な水とトイレを世界中に」のテーマで、知られざる水道についてのあれこれ。さらには持続可能な水の管理や衛生についての神戸市の取組みについて詳しくお話を伺うことができました。

 

児玉さんはこれまで街づくり、交通事業、病院事業などの公益事業に携わってきた経験があり、現在勤める水道局での事業も税金で賄っているのではなく、料金だけで成り立っていると自己紹介を始めました。

自身が担当してきたこれまでの業務内容と水道事業を比較して1)地域独占、2)資産共有(住民の敷地内に給水施設を敷いていて資産を共有している)、3)水源や水の配り方は全国の水道事業によってさまざまで比較できないことが違いだと挙げています。そんな水道事業についてセミナー参加者にクイズが出されました。

 

ではここで問題です。神戸の水道料金は全国的にみて高いか安いか。

正解は「安い」です。

水道の使用量はご家庭で使われる平均がおよそ15m3(立米)といわれています。この数値は昔より減っています。理由としては一世帯あたりの人口が減ってきているということと節水機器の進歩。水道料金が一番高い新潟で3,800円、神戸は1,700円です。神戸では平均的な家庭が使われる量で算出した基本料金を安く抑えています。また神戸は震災がありましたので20年間料金改定をしていません。他の地域は10年程度で改定しているので、その点も違います。

ちなみに月に1,700円というのは、一日にして5,60円です。買えば100円ほどの500mlのペットボトルの水も水道水なら0.06円。1円もしません。毎日1本1年間ペットボトルで水を飲んだとして、買えば36,000円ほどするのが、水道水なら20円ほどで済みます。生活用水で使うだけでなくて、飲み水として考えても安全で安いという事です。

 

次の問題です。水道水を配る配水管ですが、これを全部つなげるとどれぐらいの長さになるでしょう?

600km、1,800km、4,800kmのどれか。

正解は4,800kmです。

配水本管といわれる直径200mm以上の管が1,800kmあります。これが人間の身体で言う動脈にあたります。そこから毛細血管のように各家庭につながっている配水管があり、それをあわせて4,800kmとなります。神戸の場合大きな河川がないのでどうしてもダムが水源になります。千苅(せんがり)ダムが神戸市北区と宝塚市、三田市の境界に位置する場所にあります。そこから水を引いているのですが、それでも足らないので琵琶湖・淀川水系を水源とする阪神水道企業団から水を買ったりしています。

貯水池ポンプ場の数は、51カ所。配水池も127。大阪市の10倍ほど。水源も遠く、また六甲山脈があり高いところに住む地域の方へ水を上げていく必要もある神戸市ですが、それでも大阪市と大きく料金が変わらないという点で、がんばってきたと言わせてください。

 

*神戸市水道局の現状と課題

これはどの町でも言われることですが、水道施設の多くは高度成長期に整備されたものです。神戸は1868年に開港。町に人やモノ、文化が集まり、そこに伝染病も入ってきて,1890年にはコレラが大量発生。チフス天然痘とあわせ約1,100人の方が亡くなりました。当時の神戸区は10万人ぐらいいたとされますので約1パーセントの人に相当します。現在に換算するとなんと1万5千人。阪神淡路大震災で亡くなった方総数の約2倍。神戸だけで3倍にあたる人が亡くなられたことになるのです。そこで衛生的な近代水道が必要だとイギリスのバルトンさんという技師の指導のもと、1900年神戸水道ができました。今年はそこから120年になります。その記念と啓発の思いからロゴマークをつくりました。

 

120年も経っているということからもわかるように、古くなって交換しないといけない水道管の数が非常に多くなってきています。現在、年間40km分の管の交換を目指していますが、全長にして4,800kmありますので全部交換するのに120年かかってしまいます。管の傷みぐあいもそれぞれ。水道管は一律に傷みません。土壌や使われ方、水圧で変わります。その辺りを見極める必要があります。ではもう一つクイズです。

 

水道管1km更新するのに費用がいくらぐらいかかるでしょうか。

1000万、5000万、1億円どれでしょう。

正解は1km1億円になります

なぜ1億もかかるか。もちろん管の大きさや工事の場所にもよります。夜間の工事ならさらに割り増しになる。新設管なら入れるだけですが、既存の管は昼間なかなか工事できず、断水の問題もあります。昼間に断水して工事ができれば良いのですが、断水できない場合はその管の横に仮配管をして水を止めないように作業し、本管を取り替えてからまた仮配管を撤去する。こんな工程になり長い間道路を占有することにもなる。時間もお金もかかるのです。

 

*SDGsに関する取り組みについて

まず世界の水道の状況について。
世界で水道の恩恵を受けられていない(基本的な給水サービスをうけていない)人の割合は、12パーセント、約6.6億人に相当します。さらに安全な水を入手できない人までを含めるとさらに17パーセント増えます。
地域でみるとアフリカと東南アジアになります。
だいたいこの地域で水を運んでいるのは女性と子どもですね。もしここに水道を敷くことができたら、女性や子どもたちの水運びの時間を学びや仕事の時間に変える事ができるのではないか。そういった意味ではSDGsの教育の機会やジェンダーフリーといったテーマにも関係してくると思います。

SDGs6のテーマでいえば「安全な水を敷地内でいつでも使える状態にする」。これを実現することで、健康と福祉=命をつなぐゴールにもつながります。

 

日本は今でこそ水道の普及率は高い水準にありますが、100年前は途上国と同じような状況だった。ならばその経験を生かして国際貢献していく必要があるのではないか。そこで神戸市では、平成22年に指針をつくり、国外に出かけて直接支援する活動を行なっています。最近の主な活動としては、ベトナム ロンアン省で工業団地をつくる計画段階から参画。職員を派遣しています。同じくベトナムのキエンザン省フーコック島という観光地ではホテル建設が進み水の需要が急に増えたことで起こる問題への対処です。イギリスの植民地だったスリランカにも行っています。当時イギリスが敷設していた水道管が老朽化し、悪化した水質を改善すべく、わたしたちが貢献しています。ルワンダのキガリ市とはIoT分野で提携することになり、水質問題、漏水検査のために職員を派遣しました、現地は山も多く神戸と地形が似ているので我々の技術や経験が役立てるのではないかと思っています。

 

2つめの例です。JICAが行なっている途上国向けの研修を3年契約で神戸市が受託しています。

昨年度の事業では、1ヶ月間6カ国6名の方に水質水源に関わる講義をして、漏水計画の立案あるいは国の課題に対するアクションプラン作りをしました。

このようにして、水質分析、応急給水、漏水調査の実践などといった研修内容で、これまで24カ国210人の受講生を受け入れてきました。

 

*そのほか水に関するSDGsに関連する日本での取り組み

*防災拠点になる学校や病院を優先して行なっている水道施設の耐震化工事。これはSDGs9のインフラや11のくらしにも繋がっていると言えます。

*関西電力のVPP(バーチャルパワーポイント)事業への参画。余った電力を使い計画的にポンプで水を汲み上げるなど、電力の需要調整弁として水道事業を生かす試み。

*スマートメーターの開発。現在検針は人の手で行なっていますが、デジタル情報にして無線で飛ばすことで、瞬時に日々のデータを集めることができるようになります。もし漏水が発生してもすぐに見つけることができる。将来的には水の使用有無で高齢者の独り住まいの見守りができるなど、様々な社会課題の解決にもつながると考えられます。

*AI技術の活用。毎日のデータをモニタリングしていくことで、AIが交換すべき水道管の場所を判別しスポットで付け替えるようにできるのではないかと研究を進めています。

 

わたしたち水道局はこのように取り組んできていますが、みなさんにもこれから一緒に取り組んでほしいと呼びかけていることが2つあります。

 

1災害時の応急給水への市民参加

このマークをご覧になったことがありますか?

 

災害時に使用できる貯水機能のある場所を示すマークです。

災害発生後、水を運搬できる距離がおおむね2kmと考え、市内62カ所に貯水機能のある水を溜めたタンクを整備し、いざという時の給水拠点にしているものです。

ホームページで公表していますのでみなさんの家の近くにある場所を見つけてみてください。

https://www.city.kobe.lg.jp/a75879/bosai/prevention/water/disasterpoint/10/index.html

あと貯水機能のない災害時の給水拠点についても紹介します。

「いつでもじゃぐち」

配水池から拠点まで強度の高い耐震管でつなげている給水拠点です。小学校などに設置して平常時は子どもたちが蛇口から水に親しみ、災害時は給水栓になるものです。

「ふっQすいせん」

防災コミュニティってご存知ですか?だいたい小学校区に1カ所あります。そこに給水点を整備しています。200カ所つくり、できるだけ生活に近い場所で水を汲んでもらうようにしています。

みなさんにおねがいしているのは、地域で給水訓練をしていただきたいということです。災害で水道に問題が起こったとき、少しでも早く市民の方が自力で給水作業ができるようになってほしいと思っています。そこで装置のある倉庫の鍵を地域の方にお渡ししています。

 

2水道水の有効利用

水道局の広報活動です。LOVE&WATERというテーマでパンフレットや専用サイトを作っています。水や空気というものは当たり前にあるように思われますが、未来に向けて安全な水の存在についてもっと関心をもっていただこうと、様々な形の広報活動をしています。

例えば水をテーマにした写真展の開催や、オリジナルグラスとかコースターも作りました。賛同いただいたお店に入ると神戸市水道局と書かれたグラスで水道水の水が出てきます。そこで「この水は水道水なんだ、美味しい水だな」と思ってもらいたいと考えたアクションです。市内18店舗に協力いただき評価をいただきました。最近の取り組みはマイボトル給水。ペットボトルの水を持ち歩くのではなく、より環境にやさしいマイボトルを持ち歩いていただいて、そこに無料で水道水を給水できるようにしようと、給水ポイントをマップで紹介しています。

そのほか産官学共同で「おふろ部」というユニークな取り組みをしています。「おふろのキュレーションメディア」と称したホームページがありますので、ぜひご覧になってください。

https://ofurobu.com/

 

*メッセージ

みなさんとの共有財産である水道施設です。将来にわたり水道水の安全性を保つために、市民の方々と一緒に未来につないでいきたいという願いがあります。広報するわたしたちだけでなくみなさんのSNSなどでも発信していただき、いろんなアイデアやこれまでにない発想を集めてこれからに活かしていきたいと思います。本日はありがとうございました。(児玉さんのセミナーここまで)

 

<ネーミングライターは何を感じたか>

神戸という町は本当に海と山が近く、高低差のある様々な地域に人の住まいがあります。遠く離れた水源から全ての家庭に水を24時間365日安全に届けることの大変さを学ぶ機会になりました。セミナー参加者からは水道の民営化に対する不安、一律料金について、浄水、排水、下水のコストなど多くの質問が寄せられました。公務員である児玉さんからはこれまで一貫して公益事業に携わってきたと紹介がありました。水道は共有財産である。そう話す児玉さんの声を聞きながら「公共善」という言葉が脳裏に浮かんできました。ついつい自分の利益ばかりが優先される現代社会において、あまねく便益を行き渡らせるためにどうすればいいかを考え実行されてきた人なのだと思い至ったのです。持続可能な社会の実現にはこうした多角的な視点を持つことが必要です。効率の良い水道事業がここ神戸で実践され、そのノウハウが全国に、そして世界に広がっていくことを願っています。(洛林舎)

【神戸ソーシャルセミナーwith 学生BYCS 登里祥伍(のぼりしょうご)氏 (2020.01.22)】

2020年最初の神戸ソーシャルセミナーのスピーカーは、認定NPO法人FUTURE CODEの学生部BYCS(バイクス)に所属する登里祥伍さんです。SDGs17「パートナーシップ」に関わる海外支援活動についてお話していただきました。また後半には、来場された方と今後の活動に対しての悩みの共有と解決のためのアイデアを募るワークショップを開催されました。

 

会場にはBYCSメンバーが多く集まる神戸市外国語大学の学生スタッフが集まり、セミナー参加者とともに活発な意見交換が行われ、参加者の中にはブルキナファソからの留学生がいて、貴重な現地情報を伝えてくれました。

 

*団体の紹介から
わたしたちは認定NPO法人FUTURE CODEの学生部BYCS(バイクス)と申します。 団体名であるFUTURE CODEという名前の由来ですが、「世界中の医療に未来への鍵を」という思いが込められています。代表の大類は、外科医としてハイチ大地震の際に緊急医療支援チームとして現地に赴任したことがきっかけで、この団体を立ち上げることになったのです。

そしてわたしたち学生部BYCSですが、医学生の集まりではありません。外国語学部や社会学といった文系学生も多く、医療をテーマにしたNPOの中でソーシャルビジネスに取り組んでいます。

どういう活動かといいますと、西アフリカにあるブルキナファソという国で採れるシアバター。シアの実から採れる植物油脂で、現地では昔から保湿成分として使われていました。そのシアバターを輸入してハンドクリームにして日本で販売することで、その利益をFUTURE CODEの医療支援活動の資金に充てようとするものです。

 

*なぜブルキナファソだった?
ブルキナファソでの活動のきっかけは、地域の子どもたちに教育を届けられるようにと活動している地元NPOとFUTURE CODEが出会い、その医療部門をFUTURE CODEが担当する事になったことから始まります。最初行っていた活動は、マラリア予防の蚊帳の管理や井戸の状態確認、幼児院施設の運営などを行いながら、現地の人たちに手の洗い方やトイレの使い方などの公衆衛生面の指導、教育を担当していました。

ブルキナファソにはシアの木が多くあり、高品質なシアバターが採れます。フランスの化粧品会社ロクシタンはハンドクリームで有名ですが、その原料のシアバターもブルキナファソの畑から採られています。

 

*ブルキナファソからの留学生の情報
「シアの木は田舎に行くと畑のなかあちこちにあります。ただ木を植えてからシアの実が収穫できるようになるまで20年くらいかかるのが大変。実の収穫時期は雨期に入るすこし前の5、6月ぐらい。現地ではシアの果実を食べて、その種を集めます。」

 

*ハンドクリームhadanisheaについて
「しっとり、さらさら、肌おもい」と銘打ってこの製品を展開しています。

hadanisheaという名前の由来ですが、「あなたのお肌にシアバターを」ということで、肌にシアー=hadanisheaとわたしたちで名付けました。ちょっと小林製薬さんのブルーレットおくだけ、みたいなネーミングの感じになってます(笑)

20代後半からの女性をターゲットとして価格は1,200円。いくつもの企業から化粧品の製造委託を受けておられる大阪の企業に製造をお願いしています。

 

ポイント(1)国際認証を受けたシアバターを使用しています。

フランスのオーガニック認証であるエコサート認証(注)をこのシアバターは獲得しています。ロクシタンのハンドクリームに負けない品質だと自負しています。

※エコサート(ECOCERT):フランスの国際有機認定機関。オーガニック認証団体の世界基準とも言われ、高い評判と信頼を得ている世界最大規模の認証団体

未精製シアバターを使用しています。精製したほうが長持ちするといわれているのですが、未精製シアバターのほうが肌になじみやすいのです。

ポイント(2)さらさらしたぬりごこちは、肌になじんでべたつきません。

ポイント(3)肌思いであること。5つの化学成分(パラベン、シリコン、鉱物油、合成着色料、合成香料)を使用していません。

ポイント(4)神戸セレクション2020に選定されました。

神戸セレクションとは、神戸らしい、おしゃれで質の高い商品を公募し選定しPRしていく事業です。神戸市の協力のもと、神戸経済の活性化と、新たに神戸ブランドを創出しようという目的で推進されています。

hadanisheaは2020年の選定商品としてこれから全国いろいろなところで販売していこうとしています。

 

ハンドクリームのつけ心地を体験した参加者の声

「ニオイがきついのが苦手だったのですが、これはニオイがしないのでいいですね」(女性)

「本物のシアバターのニオイがしているね」(ブルキナファソからの留学生)

 

*もうひとつのセールスポイント。
わたしたちが売ったhadanisheaが医療支援の活動資金となり、公衆衛生の改善プロジェクトにつながっていく点が大きなポイントです。現地でシアの実を摘む作業は伝統的に女性の作業なのですね。材料のシアの実を購入する段階で、女性に賃金を払っています。こうして雇用の機会を創出することで、より医療にアクセスしやすくなったり、地位向上につながったりすることが狙いでもあります。そこに貢献できればと思っています。

また学生がこのプロジェクトをメインで動かしているということをアピールしたいと思っています。

 

*学生部BYCSが直面している悩み
hadanisheaは2019年3月から発売開始して約1,500本ほど売れたことになります。当初クラウドファンディングで支援を募ったので、実質の売上本数は1,000本ほどです。広報手段としては、BYCSとブランドの2つのSNSでの告知。ほかラジオ、新聞にも取りあげてもらい反響を得た。

学生部の先輩たちが名付け、デザインして製品化したhadanisheaも1年がたち、これからはいつまでにどれくらい売っていくのか、ブルキナファソに次の商品分をいつ発注するか、などを計画していく段階になります。

 

*売上の伸び悩み
ところが現在思ったように売上が伸びていません。去年秋から今の時期は、ハンドクリームが売れる時期だと思うのですが、なかなか売上が伸びない。メンバーではこう分析をしています。

 

*伸び悩みの原因分析
ネットショップの印象:殺風景で面白みに欠けるのではないか。スマホで見てもらう上ではキレイにできていると思うのですが、パソコン画面で見るといびつに見える。それを直したいのですが、ホームページを編集するのに特化した人材がいない。

イベントに参加して販売することが多いのですが、国際協力に関心がある、あるいは福祉・ボランティア活動に関心があるという人が集まる場所ばかりへの出店となり、結果ハンドクリームがほしいと思っている人に全然到達していないのではないか。大学内での販売も同じで、もともと20代後半の女性をターゲットにしてつくった商品なのに、キャンパスにいる学生は年齢がそれよりも若くなってしまう。それに学生は1回買ったらそんなに買い足したりしないと思われる。リーチしていく層が狭い。

神戸市内の店舗で販売できているのは、ほぼNPO法人FUTURE CODEのコネクションやその知り合いの方とのつながりで実現できたところ。学生が店に出向き、製品の説明をして、販売してもらえるようになった実績がまだひとつもない。

最初に計画したビジネスモデルを持続可能にしていくためにどうしたらいいかわからない状態です。それを今日あつまったみなさんにご相談したいと思います。

 

*学生部はこれからどうしていくのか
今主要なメンバーは大学1、2年生が中心です。授業のコマも多く興味は他にもあるだろうしバイトの時間もある。これが3年、4年生になると就職活動もしなければなりません。学生としていろんなことをしたい中でなるべく負担のかかりすぎないようにこの活動をやっていきたいなと思っている。

具体的なこれからのビジョンは描けていないのですが、このサイクルを回すためにもなるべく早く売り切ってブルキナファソの現地へ還元したいと思っています。その時期に次の製品を発注できるようになればいいと考えています。最終的にこのプロジェクトの行き着くところとしては、このハンドクリームをつくる事業そのものを会社として独立させ、日本の企業とブルキナファソの人たちをつなぐことができたらいいなと考えていたりします。ハンドクリームの生産も原材料の購入も継続し、製品も使ってもらえるからです。ただ、それが実現するのは10年もっと先かもしれません。

 

<全員でのワークショップへ>

学生部BYCSが直面している売上の伸び悩みをうけて、販路拡大のアイデア出しをセミナー参加者とメンバーが一緒になって検討する、プロボノ活動を行うことになった。その結果2つにわかれたグループから下記のような発表があった。

発表Aグループ
売り方の悩み、伸び悩みについて相談させてもらったところ、売ることばかり考えているけど、売れない理由について考えてみたらどうかと提案された。学生だからできないことも多いけど、逆にまだ経験の少ない「学生だから」を魅力にしてみるのも方法と聞いた。これは新しい気づきだった。

 

発表Bグループ
何を武器に売っていくかについて話し合った。
自分たちが何を背景に、どんな思いで何のためにつくっているかを知ってもらう事が必要で、そのためにはサイトのなかに自分たちのストーリーがいるのではないか。それを掲載することで新しく買ってもらう人とのつながりができる。買ってくれたひとが周りの人にその良さを伝えてくれる際にもストーリーがあれば伝えやすい。その先の販売促進につながるのではないか。

若さを武器にすること。小売店鋪にhadanisheaを紹介するときも、自分たちのことばかり話すのではなくて、相手のお店がどんな商品をおいていて、どんな商売をしようとしているかを教えてもらい勉強させてもらう。そこから話をはじめ、最終的に自分たちの商品をどう売っていけばいいかのヒントをもらうようにしたらいいのではないか。それも一つの方法だとなった。

 

セミナーに参加したブルキナファソからの留学生からはこんなメッセージがあった。

「興味がありセミナーにきた。悩みに対して考えたのはストーリー、バックグラウンドを伝えること。そしてお客様だけでなくステークホルダー全体のことを考えていかないといけないと思った。」

代表の登里さんは、集まったすべての意見を持ち帰ってこれからの活動に生かしていきたい。そう締めくくった。(登里さんのセミナーここまで)

 

<ネーミングライターは何を感じたか>
前回12月にWHOの茅野さんのセミナーがありました。ある種の予言だったかのようにいま新型コロナウイルスが世界の喫緊課題となっています。ウイルスの封じ込めが非常に難しい時代に、世界中の国が連携することで善処していってもらいたいと切に願います。さてSDGsを担う若い世代が担当する今回のセミナーです。ソーシャルビジネスに代々取り組んでいる学生たちのまっすぐな姿勢に圧倒されました。人前で悩みを正直に打ち明けることの難しさ、その勇気は必ず解決の方向に導いてくれることでしょう。

BYCSとは、Bridge Youth Challenge Smileの頭文字から。若者らしく、がむしゃらに挑戦しつづけて、笑顔を届けようという意味が込められているとのことです。ワークショップで2つに分かれたグループから図らずも同じ意見が出ていました。それは若さを武器に「できないこと」を逆手に、チャレンジすること。

活動を持続可能にしていくためには、できないことから目をそらさずにいること。その勇気をもつこと。学生たちからそう教えられた気がしました。BYCSの活動がブルキナファソとのグローバル・パートナーシップをより強くしてくれる一助になることを願っています。

【神戸ソーシャルセミナーwith WHO神戸センター 茅野龍馬氏(2019.12.11)】

12月二人目のスピーカーとしてお迎えしたのは、WHO神戸センターで健康危機管理担当医官として働く茅野龍馬さんです。SDG3「すべての人に健康と福祉を」をテーマに、参加者との間でWHOの仕事とSDGsについてインターアクティブに話し合う場となりました。

茅野さんは、国際保健という観点から「なんでSDGsが生まれたのか」「その前にあったMDGsから世界がどう変わって、今我々はSDGsをどうして目指しているのか」についてわかりやすい言葉で解説を始めていきます。

 

*世界保健デー(WHOの設立日である4月7日にグローバルヘルスの重要課題を取り上げる)の2018,2019年のテーマはUHC(ユニバーサルヘルスカバレッジ)

これはすべての人に適切な質の医療を適切な価格で届ける、という概念です。

これを世界中の全ての国の全ての人に届けることがSDGsのキモになると我々は考えています。

 

*WHOが掲げている3つの目標。

1)10億人のUHC 、2)健康危機から守る(感染症のアウトブレイク、災害などから人々を守る)、3)健康増進(高齢者、障害者など)

 

*WHOの組織について

各国に保健省を支援する形で存在している組織が世界中で150箇所くらい。ただ、日本やアメリカ、西ヨーロッパ諸国等にはその組織はありません。なぜかというとそれらの国はWHOの助けが途上国ほど必要ではないからです。それらの組織を6つの地域に分けて束ねて、全体を統括しているのがスイス・ジュネーブにあるヘッドクォーター(本部)です。

ではここ神戸センターはどんな役割をするかと言えばちょっと特殊な組織でして、世界で唯一のWHO本部直轄の政策研究をするセンターです。UHC/高齢化/健康危機管理についての政策を作っていくための研究をするところになります。

 

*SDGsを考える上でのキーワード「グローバルとインターナショナルの違い」

グローバルとはglobe、地球のこと、そこに国境は関係ありません。インターナショナルというのは国 (nation)と国 (nation)との間柄(inter)を考える。国際はいい翻訳ですね。国があって国境があってそれぞれの利害関係を調整しながらその「際(きわ)」を考える。このグローバルという言葉の意味を考える必要があります。

 

*グローバル化している「経済」、していない「保健」

経済は今ほぼ世界中で繋がっていると言えます。どの国にいっても経済活動をある程度同じルールでできるようになっていて、日本人が外国で会社を作ることもできる。その意味で経済はグローバル化しています。でも保健領域は比較的グローバル化していません。国どうしの間に貧富の差があり、貧しい国に対して富んでいる国が保健の問題で補填する仕組みはまだまだ整備ができていません。

 

2000年はMDGs が生まれた、大きな意味を持つ年です。経済成長で国家間に大きな格差が生まれた中で、先進国を中心とした世界のリーダーが、世界の問題は自分たちの問題として考えて底上げしていこうとサミットで話し合いました。その結果、開発分野における国際社会共通の目標(ミレニアム開発目標)ができたのです。

そうして掲げられたMDGs目標8つのうち、3つが保健領域です。「幼児死亡率の削減」「妊産婦の健康改善」「HIVマラリア結核などの蔓延防止」

 

国際社会はこの取り組みの中で、GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)を作りました。ワクチンが高くて買えずにそのせいで死んでいく子どもたちがたくさんいることから考えられたシステムです。お金を持っている国や人からたくさんお金を集めてワクチンを買って、配る。シンプルな仕組みですが、その効果は極めて大きく、GAVIは21世紀の大きな進歩のひとつです。

 

また世界エイズ・ 結核・ マラリア対策基金(グローバルファンド)もこの時創出されました。

これらの取り組みの結果として2002年に30万人ほどしか行き渡らなかったエイズの薬は、たった6年で400万人に届くようになりました。これが公衆衛生の力です。政策を変えることによって社会を変えることができるのです。それは、エイズ・結核・マラリアという3大感染症から2000万人の人を救ってきたのです。

 

格差があっても、そこに富を再分配する仕組みがあれば、食べ物や水や薬がなくたくさんの人が死んでいた状況を変えることができる。それがこれらの領域で可能になったのが、MDGsの生まれた21世紀初めのこと。MDGsは結構がんばって達成してきたのだと思います。

 

 

*MDGsからSDGsへ

今はどうでしょう。保健の問題が全部解決したのかというとそうではありません。新たな問題が出てきました。「グローバル化と高齢化」です。ここで世界がグローバル化している、という問題と関係してくるのです。

 

*感染症という脅威

2016年にはMERSという病気が流行りました。もともとサウジアラビアにあったラクダの病気です。ラクダとその側にいる人しか伝染らない病気だったのですが、観光客が訪れラクダに乗ったり肉を食べたりして感染するようになりました。そして一人の韓国人がサウジアラビアで感染しました。彼が自国に戻ったあと発症したことで韓国内で100人以上の人が伝染して、30人以上が死亡したということがあったのです。ショッキングな出来事でした。

 

*世界中の空を飛ぶ無数の飛行機のLIVE映像

この動画何を意味しているかわかりますか?

この小さな黄色く移動する点は飛行機です。24時間365日こうして人や物があらゆる移動を繰り返しているという動画です。

https://ja.flightaware.com/live/

 

これがグローバル化した社会です。感染症を考えるときに潜伏期間ということがあります。大体2日間から1週間ぐらい。昔船とか陸路でしか人が移動できなかった頃は、港や国境で危ない病気を防ぐことができたのですが、今飛行機に乗れば菌を保有したままわずか2日間ぐらいで国境を簡単に超えてしまうのです。そして国境を突破してから発症してしまう。これに関してどう対処できるか?これが難しいのです。皆さんいいアイデアないですか?

 

*IHR国際保健規則

国境を超えて入ってきてしまうのは仕方ない。そこで病気が見つかったらみんな同じルールで対策を立てようという規則です。危ない病気がコントロール効かないくらいに流行りそうな時は、緊急事態宣言を出して、すべての国が同じようにルールに従って行動する。ちゃんとWHOに報告して情報共有し、それに従っていろんな対策を講じていこうとするものです。

 

たとえばエボラ出血熱。非常に危ない病気です。ギニア、シエラレオネなどで発生しました。でも封じ込められずに国中に広がった。非常事態を宣言したけどすぐには事態が収拾しなかった。なぜか?規則を実践するキャパシティが不足していたことが大きな要因と考えられています。ルールがあってもそれを実践する国や組織がないと意味をなさない、それが今のもう一つの課題です。

 

*都市化と健康格差という問題。

今世界の多数派は都市部に住んでいます。1960年ごろは若者は都市部に出るけれど人口の70%ぐらいが田舎に住んでいました。それが2010年に逆転しました。多くの人が都市部に住み、密集して暮らしているのです。

*どれくらい世界は高齢化しているか

2015年の時点で人口の30%が60歳以上という国は世界で一つだけ。日本です。それが2020年になると、ドイツとイタリアが追いつき、2025年フィンランド、スペイン、ポルトガルもそうなると言われています。昔は高齢化になるのは長生きできる国=お金持ちの国だけと思われてきたが今は違います。すべての国で高齢化は起こっています。

結果として平均寿命は全ての国で右肩上がりに伸びています。バングラデシュの平均寿命は30年前はまだ50代でした。それが今はもう70歳超えています。世界全体の平均年齢も70歳を超えています。

 

*世界の人が長生きできるようになるとどうなるか

不健康な食生活で生まれる生活習慣病。これが今世界中で起きているのです。今世界の主要な死因はガン、脳卒中、心臓病です。

 

2015年WHOはこれが世界の課題だと言って、高齢化と世界の健康についてのワールドレポートを出しました。WHOはこのレポートの中で非常に大事なことを言っています。それは何かというと、「高齢化に対してどう向き合うか」ということです。

 

歳をとると病気になってお金がかかる、そんなことを耳にしたことがありませんか?高齢化のせいで医療費がかさみ経済が破綻する。だから高齢者や認知症患者はお荷物だという言い分です。でもWHOはそれは大きな間違いだと言っています。

 

加齢に対する意識を変革しましょう。「高齢者に対する出資は投資であってコストではない。」これは非常に強いメッセージです。

2011年英国の研究で、高齢者にかかる年金、福利、医療費などのコストを算出し、そこに高齢者がどれくらい個人消費し、税金を納めているのかを比べてみると、6兆円プラスであることがわかった。これが2030年には12兆円になることが予想されました。高齢化対策には確かにお金がかかる。でもそれによってもっと大きな富を生み出しているのだということです。

 

*「全ての人に健康と福祉を」

全ての年齢の人に優しい社会を作っていきましょうというのがWHOのメッセージです。MDGsの時は世界は今よりシンプルでした。貧乏とお金持ちの格差がありその間をつなぐものが足りなかった。そのリソースをどうやって動かすかが大きなテーマでした。たくさんの努力の結果、世界は大きく進歩し、そして複雑になりました。みんながある程度長生きするようになりましたが、環境汚染も高齢化も進みました。対策も色々難しくなりました。グローバル化は進みます。その複雑な社会を複雑に解決しましょうというのがSDGsなのです。17個もテーマがあります。それは大変です。

 

そうした中でWHOは「健康な生活を保障し、全ての年齢層の全ての人々の良い暮らしを推進していく」ということを目指しています。私の話が皆さんにとって何かしら参考になればと思います。ありがとうございました。(茅野さんのセミナーここまで)

<ネーミングライターは何を感じたか>

今回のレポートも担当しています。SDGsの前身MDGsが生まれたのが2000年、わずか20年前の状況が、今と比べると単純だったとはかなり驚きました。複雑化する時代の複雑な課題を他人事にせずに受け止めること。それは国連でありWHOの仕事だとして、私たちが考えることを止めてしまうわけにはいかない。伝染病が蔓延してしまうのは困るけど、心身ともに健康であるために世界中が迅速に支え合う社会に変革することは歓迎したいと思った。医師でもある茅野さんは、いわば地球の健康を守るための医療を施している人なのだ。セミナー後参加者からは様々な意見が寄せられた。茅野さんは一人一人の言葉に耳を傾け「その通りです」と受け止めている。それは白衣姿で患者にまっすぐ向き合い、問診しながら治療法を考えている医師のようであり、その言葉と姿がとても印象に残っている。(洛林舎)

【神戸ソーシャルセミナーwith まなびと 中山迅一氏(2019.12.04)】

12月最初のスピーカーは、まなびと理事長中山迅一さんです。SDG4「質の高い教育をみんなに」をテーマにお話を伺いました。

 

「まなびと」は神戸を拠点に地域の学び場づくりに取り組んでいる団体です。これまでどんな「学び」が生み出せたのか、どんな思いで活動されてきたのかを知りたいと会場に集まった参加者の視線にすこし気圧された様子の中山さんは、静かに話を始めていきます。

教育と地域の関係性

 

教育には携わろうと思っていたが教師になりたかったわけではありません。この道に進むきっかけはひとりの中学生との出会いです。塾にやってくるこの中3の生徒はいつまでたっても中学1年の英語のレベルを超えることができなくて、毎回同じ内容を数ヶ月教えることになり困惑しました。そのときの気づき。塾で教える1時間。それは1週間を時間に換算した1/168でしかない。問題は残りの167時間にあるのではないか。つまり授業を受ける1時間以外の残りの時間にその子を変えるきっかけがある筈。それを考えた時に頭に浮かんだ言葉が「地域」だった。地域をうまく回すことができると世の中も変わっていく、そんな予感がしました。

 

日本語が話せない在日外国人「せんせい さみちい」

 

ベトナム人の女性がいました。実はわたしが3年前に日本語を教えていた女性でしたが、再会した時Facebookで送ってきたメッセージが「せんせい さみちい」だったのです。3年経ってもひらがなでこれだけ。そして友だちもいない状況にこれまで教えてきたことはなんだったのかと考え込んでしまいました。彼女の抱える問題は、うまく日本語が話せないから日本人の友だちができない。そうなると日本語を話す機会に恵まれず上達もしないという悪循環に陥っていたこと。もしここで教師の立場なら日本語を勉強させることを考えるのだろうけど、地域で活動している自分は違う方法を思いついたのです。「日本語なんか話せなくても友だちはできる」そう彼女に声をかけて、外国人と話してみたい日本人の学生たちを集めて一緒に勉強する場をつくったところ、自己紹介を互いにできる機会が増えてとても楽しそうな時間を過ごしてくれたのです。そこで気づいた事は「教育は新しい可能性を与えてくれる。今の自分にはない可能性を開いてくれるものだ」。そして「地域の役割は、その人にしかない可能性を大切にしてくれる場」ではないか。だから「地域の役割はその人を受け入れることにある」と考えるに至ったのです。

 

*地域という場づくり、まなびとの誕生

 

そこでわたしは勉強で行き詰まった子どもが何につまずいているのか今興味をもっていることはなんだろうと、抱えている問題点に出会える場所を、コミュニケーションができる場をつくりたいと思ったのです。塾ならば先生と1対1だけれど、地域ならそこでいろんな人と関わらせることができるので、その人の中に眠っている可能性を開かせるチャンスがあると思い活動をスタートしました。教育機関の外側で地域に住む人が自分のこと、地域や社会のことを学べる場をつくろうと思い、そうしてNPOを立ち上げたのが29才の時です。

 

まなびとの理念

自ら学び、ともに学びあい、豊かな社会づくり

 

やりたいことをやって、いろんな人と関わっていけば、自然といい社会につながるはず。これが言いたかった。だから、まなびとはどんな人でもやりたいことが見つけられるという地域のまなび場なのです。

 

なぜやりたいことにスポットを当てているか、というとやりたいことが見つからないと人はその場から出ていくことができずに世界を閉じていく。孤立していく。そうするとやりたいことも見つからなくなってしまう。逆にやりたいことが見つかるとそれを通じて人と関わるチャンスが生まれる。いろんな人と関わることで、自分に対するいろんな言葉をもらうことができる。自分に対する評価などから自身を見つめ直すことで、社会に対する自分の役割というものが見えてくるのだと思います。だからやりたいことが大事なのだと、スタッフにはいつも言っています。

 

*「居場所」と「多様性」という相反する事柄を掛け合わせる

 

この2つは実は相反する価値観だと思っています。自分が安心できる場所は、単一になりがち。一方で多様性には自分の知らないことがたくさん含まれるものです。そこでいかに安心感のある多様性という場所で、自分と違うものに触れることができるかが大切で、そこに価値があると思っています。なぜこのようにやりたいことが大切だという思いに至ったか、それはわたし自身のこれまでの人生が大きく影響しています。

 

*有名大学、有名企業という人生のレールから途中下車して得たもの

 

わたしは京都大学に入学し、その後大手生保会社に入社が内定していながらも、自分がやりたいことが何か見つけられずに停滞した時期がありました。別居していた父の家で閉じこもり悶々とする生活。それでも久しぶりに同居する父は何も言わずにその時の自分を受け入れてくれました。そのままでいいと思ってくれている存在を感じて、誰かに認められるために人生を送るのではなく自分が本当にやりたいことをすることで自分も周りの人も幸せを感じることができるのだと思ったのです。

 

もう一つの出来事はその頃に行った海外でのエピソード。タイについて早々体調を壊してしまい、現地の友だちが働く店の一角でしばらく休ませてもらっていた時のことです。皆が働いている側で日本人がただ休んでいてもそのままにしてくれる。その店のボスがやってきても自然な言葉で私に声をかけて労ってくれた。なにか日本で働くことと違う概念がそこにあるように思えました。これまで有名大学を出て一流企業で働くという限られた価値観に自分も囚われていたから苦しい思いをしていたのだと気づくことができたのです。自分の幸せはいろんな人の価値観に出会うことで見つけてみたい。教育をこれからの自分の生きる道にしようとそこで思いを新たにしました。

 

*まなびとでの様々な活動内容

 

2014年任意団体として「まなびと」を設立。同年、NPO法人格に。2017年特例認定NPOとして認定団体としての試用をいただき、認定を受けるべく今に至っています。構成要員は有給スタッフが3名。スタッフが約50名。内8割強が大学生です。

事業内容は子ども向け事業と日本に住む外国人向け事業があります。現在では大学生スタッフが50名、関わっている子どもたちも週に50名くらい。外国人の方も50名くらいが活動しています。

 

 

「放課後学びスペース アシスト」

塾・学校・家庭といった既存の場所だけでは居場所を見いだせない子どもたちが安心して通うことができ、学校の勉強に限らず、人との関りの中から自分自身や社会について学べる場。

 

そこでは勉強よりもその子が何をしたいかを見つけることに価値を置いています。そこは安心して悩みを相談できるところでありたいと思っています。

 

「日本語教室だんらん」

日本に住む外国人のための日本語教室。

 

そこに集まる外国人の8割近くは日本語を話せるレベルは高いのです。でも文法はわかっているけれど日本語を使ったことがないという人たちです。ここにはもっと日本語を話す機会を得て、日本のことをもっと知りたい。文化を知りたいという人がいます。

 

「神戸こども探険隊」

神戸三宮エリアで、放課後に遊べる場所や学べる場所に困っている子どもたちが自由に遊び、学べる場所

 

ある時、「子どもたちを地域で育てることができていない。」「学習支援も大事だけど遊ぶ場所がないから楽しそうじゃない。」「礼儀も知らない」という声を聞き、週1回でもいいから遊ぶ場所をつくってみようと思い始めました。この活動は神戸市の「子どもの居場所作り事業」に認定されています。

ここでは学年が違う子どもたちが一堂に集まるので、みんなが一緒に遊べるように大学生スタッフが苦心したり、そもそも一緒に遊ばせるべきかどうかを議論したりしています。

 

「民間学童保育施設 北野くん家」

両親が共働きであるなどで、放課後一人で過ごしている子どもたちのために神戸三宮エリアで行っている学童保育事業。

 

こども探険隊の実績があって、神戸市からの要請を受けて始めた学童保育です。

 

*まなびとは何を目指しているか

 

まなびとが目指すことは、単に学童保育がやりたいわけでも日本語教室をやりたいわけでもありません。これを通じて出会える人たちと関わることで互いに学び合って、支え合うコミュニティをつくりたいのです。

 

それぞれの事業はいわば入り口。そこに入ってきた人がまなびとを知り、人と関わり混ざり合う中で、それぞれのやりたいことを見つけてもらえばいい。そんな場づくりをやっています。

 

そのほかにも単発で行なっている事業もあります。最近では日本にやってきたばかりの外国人向けに日本語学校の出張授業をおこなったり、外国人のボランティア部をつくり地域での役割を見つけようとしたりしています。一例を挙げると、これから日本に住もうとしている外国人の後輩に生活情報を届けようと、コンビニのポットの操作、どのボタンを押せばお湯が出るかを情報提供したりしています。

 

*まなびとのこれから

 

この秋に外国人と大学生でキャンプに行きました。みんなと重ねられる時間が長いし、遊んだり料理をしたりして一緒に時間を過ごすことで成果を共有できる。同じ体験をすることで絆を深めることに価値があります。これからは、いろんな人と一緒にキャンプすることができたらいいなと思っています。

 

わたしたちの活動はすごくいいプログラムを持っているわけでもありません。ごくごく当たり前のことをしているだけで、多分どこでもできることです。日本中どこでもできるような当たり前のことですが、ここからでないとやりたいということが生まれてこないと思っています。(中山さんのセミナーここまで)

 

 

<ネーミングライターは何を感じたか>

今回のレポートを担当しています。日頃は企業を相手に新規事業や新商品のネーミングをしたりする立場ですが、NPOとして地域に貢献する方々のお話を聞くのは私の脳の新たな部位を刺激してくれました

中山さんのトークに一番多く出てきた単語は「地域」。その言葉は時に「教育」と二軸で相関する意味合いで語られています。中山さんが語る地域という言葉には、二本足で歩行する人格を与えているような感覚を受けました。確かに教育現場という限られたスペースから180度体をひねり外を見れば無限の可能性があるのかもしれない。地域という様々な人を惹きつける磁場があれば、あまねく人はより成長することができるのだろう。セミナー終了後に参加者から質問が集まった。中山さんのゴールイメージは?という問いかけに、ひたすら入り口づくりに徹するというような答えがかえってきた。事業を大きくして全国に広げる、というような予想された回答を見事に裏切ってくれた。これまで日本が抱えてきた成長志向に乗り損ねている多くの人の存在に焦点をあて、中山さんは大きな丸い磁場をつくろうとしているのだ。でもそれはおそらく「地域」という言葉で言い尽くすことができない。いつかもっとふさわしい言葉がこのような集まりの中のどこからか生み出される、そんな予感がした。(洛林舎)

【神戸ソーシャルセミナーwith 神戸ダルクヴィレッジ 梅田靖規氏(2019.11.06)】

11月の神戸ソーシャルセミナーは、SDG3「健康と福祉」をテーマに、政令指定都市のなかでも最後にできた薬物等の依存者支援を行う「神戸ダルクヴィレッジ」。こちらの梅田さんにお越しいただきました。

「さみしい」「孤独」「人の目を気にしている」「バカにされたくない」「忘れたいことがある」・・・こんな言葉を聞いて皆さんはどんな人を想像するでしょうか。

誰もが感じたことのあるこのような感情。これはすべて薬物依存になったか方々から漏れた言葉だそうです。

薬物依存症とは、薬物を「使う病気」ではなく、薬物使用をやめたくても「自分の力ではやめられなくなっている病気」、と精神保健福祉士でもあり、アジア太平洋地域での薬物依存症施設研究のご経験もある梅田さんは話されます。人とのつながりをなくし、孤独や不安を強く感じる際につながりを持とうとするときに、不健康なつながりとして薬物に依存することが多い。ただ「だらしない」とか「いい加減な人」ではなく「つながりが切れてしまった人」「人に話したり相談したりできなくなってしまった人」が、一時的な解決として薬物を始め、やめられなくなってしまうそうです。また、特に女性の依存者が多い背景には、彼氏から誘われて、拒めずに辞められなくなってしまうこともあるそうです。

 

◎Addiction(依存症)の反対はConnection(つながり)

薬物関係で捕まると刑務所に連れていかれます。当然ですが厳しい状況に置かれ、多くの人はどんどん自分自身を追い込み、自尊心が落ちていく。そして、出所できても、友達も仕事も失っていて、最悪の状態からのスタート。社会のスティグマ(烙印)を背負っての社会復帰はいまの日本ではかなり難しい・・・また、アルコールやギャンブル依存は莫大な借金があるときは難しいですが、他人に相談することはまだできそうですが、薬物関係に関しては相談することも難しい。そこで受け皿になるのがダルク(Drug(ドラッグ)Addiction(依存症)Rehabilitation(リハビリ)Center(施設)の頭文字をとったDARC)。日本では1985年近藤恒夫氏が東京・日暮里で始めたのが日本での始まりだそうです。そして現在各地(今は全国に約80か所)にあるダルクはそれぞれが独立しており、神戸ダルクヴィレッジも3年前に設立されました。ダルクは依存症となった人たちが、安全で安心できる居場所として、依存症から回復した仲間が回復モデルとなり、寄り添うことで生き方を変え、一生を歩むプロセスが始まる場所でもあります。病院や行政と違い、24時間体制で共同生活を行う場所でもあるので、仲間同士で支え合う仕組みになっています。

◎日本の依存症者の社会復帰に必要なもの

依存症の方々は本当に苦しいときは「わかってほしい」「助けてほしい」「愛してほしい」という言葉が言えずに生きています。そしてこれらの人たちが社会復帰するのに最も大きな要因は名医の診察でも、刑務所での矯正教育でも、ダルクの力でもないと梅田さん。本当に必要なのは地域社会の理解と思いやりであり、失敗をチャンスに変える、それを受け入れてくれる世の中だそうです。

◎ライターツボの目

実は10数年前はご本人も絶対薬物をやめられないと悩み、苦しんでおられた梅田さん。3回の自殺未遂の末、ダルクに出会い、薬物を辞めることができ、施設におられるうちに精神保健福祉士の資格も取られ、JICAの仕事でフィリピンの貧困層の薬物依存回復施設で活躍もされました。自分とは遠い存在だと思っていた薬物依存症ですが、人とのつながりが切れること、人間関係が切れることに恐れることがきっかけではじまる話を聞いて、他人事ではないなと感じました。また講演の際に紹介いただいた動画(※)も観る中で、回復には人とのつながりがやはり重要なのだと改めて感じ、他の社会課題との共通点も感じる回でした。

 

https://www.youtube.com/watch?v=C8AHODc6phg&feature=emb_title
英語ではありますが、薬物依存についてわかりやすく紹介されています

【神戸ソーシャルセミナーwith WARAKATA 野口愛氏(2019.10.26)】

10月のフューチャーセッションは「自助グループ(※)」をキーワードにまだまだ日本には少ない、精神障害を持つ親の「子ども向け自助グループ」WARAKATA(ワラカタ)の野口さんにお越しいただき、お話とともに参加者同士で何ができるかを考える、対話型ワークショップフューチャーセッションを行いました。

※共通の問題や悩みを抱えた人が集まり、自主的に運営しているグループ。

神戸初、おそらく兵庫県でも初の精神障害・精神疾患の親を持つ子ども向け自助グループ立ち上げ人である野口さん。昨年から、同じ立場の人同士の交流会を定期的に開催、最近はこれらの活動に関するご講演もされているとのことです。なかなか親が精神障害ということが自己開示できないという子どもの立場ゆえの孤独がありますが、そもそも親が病気だという認識がなくそれが当たり前と思っている人も多いそうです。そして、周囲に適切な助けを求めることができずに、親の人生に巻き込まれることを「ヤングケアラー問題」ともいい、野口さんも親が入院し、そして遠く他県に同じような悩みを持つ人と出会ったことで、子ども同士だからこそ感じ、通じるものがあると気づき活動を始められたそうです。

自助グループは例えば精神障害を持つ当事者、その親、そして配偶者など、さまざまにありますが、立場によって感じること・課題や解決に向けたアプローチが異なるため、あえて「子ども同士」のグループを設立されました。

◎「あるある」を共感

同じような親を持つ子どもという状況の者同士で話し合うことで、共感できる人やことがあることの安心感や、過去、未来の自分に出会える機会があると野口さん。参加者や今までにない、不安や不満を吐き出せる場としても安全な場所になっているそうです。まだまだ活動は始まったばかりですが、ゆるく、細く、でも長く続くような活動ができればというところをお話しいただきました。

 

◎見て、聞いて、感じて、話して、創る。

野口さんのお話の後は、参加者同士でどんなことを「感じたか」「今このメンバーで何ができそうか」などを話し合いました。そして、その場にいる人たちの特技や経験、つながりなどを生かしてできそうなことをさらに実現性のあるアイデアにブラッシュアップしていきました。

 

<参加者の声>

・自助グループという存在、NHKドキュメントルのようなリアルなお話しを聞かせていただきありがとうございました。

・話すことでスッキリする。これは本当に大切なことだと感じました。ありがとうございました。

・自分に何ができるかを考えるキッカケになった。

 

◎ライター ツボの目

野口さんのお話を聞いて、個人的に自分にも思い当たるところがあるのではと感じるところが多々ありました。特に自分が置かれている状況になかなか気づけない、気づいてもどこに相談していいかわからない状況は例えばDV被害を受けている状況など他の社会課題にも通じることがあるなと感じました。同じ悩みを抱える・理解のある人たちによって安心して、自己開示できる場づくり、そしてそのような場が求める人にうまく届くことが本当に必要だと改めて思います。

【神戸ソーシャルセミナーwithフードバンク関西 浅葉めぐみ氏(2019.10.2)】

10月初めのゲストは、余った食べ物を預かって、必要なところに届けるフードバンク関西の浅葉さんにお話をいただきました。

まず初めに、80名ほどおられるというボランティアさんの中でも映像関係のお仕事をされている方が作られたという活動紹介を見て、フードバンク関西の取り組みについてご紹介いただきました。

 

毎月30人前後のボランティアさんが交代で、企業との交渉から、食料品の受け取り、検品、仕分けなどを拠点となる神戸市東灘区の倉庫で行い、阪神間の福祉施設を中心に月のべ100回ほど食料の無償配布を行っておられるそうです。

さらに別のNPOと協働した食のセーフティーネット事業「子ども元気ネットワーク」では母子家庭の特に困窮したご家庭に月に1回食料を宅配されたり、「ひょうご子ども食堂ネットワーク」の事務局として、兵庫県沿岸地域で活動する子ども食堂を中心に食料配達もおこなってられます。

 

・食べ物は「命の糧」。なのに、、、

日本の食料自給率はここ2年でさらに落ちカロリーベースで37%。しかも日本の食料輸入額は中国に次ぐ2位(2013年582億ドル)。人口が急増している中国ならその輸入額に納得いくのですが、その人口差にもかかわらずこれだけ輸入しているのは、それだけ大量廃棄が生じていると考えられます。平成22年と少し前のデータではありますが、約9000万トンの食資源のうち、廃棄物は約35%の3000万トン。そのうち約4分の1にあたる500~800万トンはまだ食べられる食品、いわゆる「食品ロス」だと言われています。

この約3000万トンうち事業系廃棄物は2000万トン。食品リサイクル法により、半分は飼料になるなど再活用が進んでいますが、残り約1000万トン家庭系廃棄物はゴミ箱に入ってしまえばそのまま焼却・埋め立て処分となってしまいます。その量はなんと94%!国連が毎年難民支援を行っている食料量は360万トン、日本のお米の総収量が800万トンだといわれているそうで、それ以上とは、、、

 

○2019年5月には食品ロスの削減推進に関する法律が成立したばかり。これからどうなるかは未知数とのことです。

 

・日本の常識は世界の非常識!?「3分の1ルール」という商習慣

皆さんは買い物をするとき賞味期限をどこまで気にしますか?実はこの賞味期限、メーカーが任意で決めることができるのです。そして最近あまり見なくなった消費期限、これは5日以内に品質劣化が起こる期限で、これを超えるとおなかを壊す可能性があるのですが、賞味期限を超えてもまだまだ食べられるものはほとんどだそうです。実際日本の缶詰の賞味期限は3年と業界的に決まっているそうですが、調味液に漬けて缶詰められた魚介類は、3~5年ほどしてからの方が味が馴染んででおいしいそうです。

そして、メーカー、卸売業者は賞味期限の3分の1を超えると小売業に買ってもらえず、廃棄、小売業者も賞味期限期間の3分の2が過ぎると、店頭からおろしてしまうという「3分の1ルール」という商習慣が日本にはあるそうです。また、賞味期限直前の商品に割引ラベルを付けて販売しているお店も見かけますが、ラベルを貼り付けるアルバイトを雇うコストと廃棄コストを比べると後者の方が割安であることを理由に賞味期限前でも破棄されてしまうことも多いそうです。

ちなみに「3分の1ルール」は日本独特のようで、アメリカ・カナダでは2分の1、イギリスでは4分の3の時点でメーカー・卸売業者が廃棄するそうで、他国と比べとても短いことがわかりました。

さらに京都大学の研究によると、一般家庭では手付かず賞味期限以前で廃棄した食料品の割合は廃棄量の2割を超えるというデータもあり、これは一世帯で年6万円、全世帯で年10兆円分も廃棄されている計算になるそうです。日本人の過敏な食の安全性へのこだわりは食品ロスが増える一因になっているのかもしれません。

 

○神戸市では、利用しなくなった賞味期限前の食料品をスーパーなどの店頭などで回収する「フードドライブ」の取り組みがここ最近増えている

 

・食品ロスを減らせば、みんなが「お得」?

現在の食品の価格には廃棄する分のコストまで乗ってしまっています。また現在先進国では大量生産大量消費が当たり前となっており、その調達コストが減ることは、途上国も自国分の食料を確保することにつながります。食糧事情の改善、無理な大規模耕作を控える、自給率を挙げ自国で生産された農作物や食料を消費することは、輸送による環境負荷なども抑えることにもつながるといわれています。

しかし、過剰生産・販売を抑制することは、企業側では利益確保の視点から難しいといわれており、消費者としての我々が過剰に食料品を買わない、できる限り捨てない、できるだけ国内産の農作物を選択することがカギとなってくるそうです。

 

・「食品ロス」と食べ物に困っている人たちをつなぐ「フードバンク」

昨今非正規就労人口が増加し、経済格差が広がっている日本。特に母子家庭の世帯の半分が非正規就労で生活し、平均年収は130万円。これは月12万円の生活保護レベル以下で子育てもしている世帯がいるということで、相対的貧困状態に陥ている子どもたちが7人に一人にもなっていることの一因。一方フードバンク関西に集まる食料は、例えばラベル印字ミスや配送用の外箱が壊れたカレー、皮の破れた豚まん、検疫で開けられて流通に乗らない焼き鳥などまだまだ賞味期限すら十分にあるのに破棄が決まったもの。これらを子ども食堂へ配布するほか、社会福祉協議会と連携し生活保護申請に来られた方に1週間分の食事として提供もされています。

 

○生活保護申請はどんなに急いでも支給されるまでに2週間かかる。申請に来る人は今日食べるお金もなくぎりぎりの人も多いそうです。

 

<ツボの目>

今月のテーマはSDG2「飢餓をゼロに」。普段は食品ロスをなくすということでSDG12「つくる責任 使う責任」の中でも特にターゲット12.3「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる」というテーマを中心にお話しいただくことが多いフードバンクの取り組みですが、フードバンク関西では子ども食堂への支援やDVを受けた母子家庭への支援などにも力を入れておられるということで、今回ご登壇いただきました。

それにしても、フードバンクの仕組み自体は素晴らしい取り組みにもかかわらず、まだまだ日本では公的支援がまだまだ乏しく、その運営は厳しいそうです。全員がボランティアで行っても、倉庫代や流通させるためのガソリン代などの経費は掛かり、その金額は年間1000万円超!さらに収益性のない事業であることから、寄付に頼る経営はとてもスリリングとお話しされていました。食品ロスを減らしていくことももちろん重要ですが、食のセーフティーネットとして続けていくために、例えば企業活動の中で配送後空になった配送車の帰路を活用するなど資金以外の連携も仕組みによって進めることもできるのではと考えています。食、貧困、企業活動など複雑に絡み合った社会課題を解決するためにフードバンクの持続可能なモデルを作ることはSDGsをキーワードに連携し、「だれ一人取り残さない」持続可能な社会をつくる一つのケースになる可能性を感じます。

 

【神戸ソーシャルセミナーwith 森林保全 黒田慶子氏(2019.9.25)】

9月2人目のゲストは、日本の国土の約7割を占める「森林」を主なテーマに、神戸大学の黒田慶子先生にお話しいただきました。

・「里山」とは?

豊かな「森林」や「自然」と聞いて皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか?

原生林、田園風景、日本庭園・・・?そんな質問から、もともと森林総合研究所におられた黒田先生のお話は始まりました。

時と場合によりその意味が異なり、混乱のもとにもなる理由として、例えば欧米の「自然」とは「wilderness」という原野や荒野のイメージがあり、「自然保護」とはその状態をそのまま保つという意識が強いとのこと。また、「森林」の種の多様性についても日本より高緯度のヨーロッパにはその種の多様性も日本と大きく異なり、例えばドイツは日本の3分の2程度しか木々の種類がないそうです。一方、日本にはこのような原生林をイメージする場所はほとんどないそうで、千年以上前から山林を資源としての「里山」を利用しつつ持続させている歴史もあるそうです。このように一口に「自然」や「森林」といっても国や地域、時代などが違うとそのイメージも様々のようです。

「里山」とは「農用林」とよばれ、日本の森林面積の3割ほどにもなるそうで、伐採し熱源となる薪や炭、枝や落ち葉を肥料などに長年利用されてきたアカマツ林のこと。また、いわゆる「ドングリ」などが採れるコナラやカシ、シイ類の広葉樹林は「天然林」と呼ばれていますが、「自然に生えた天然の林」ではなく、人の手で植えたものだそうです。

そして、これとは別に、スギ、ヒノキなどの針葉樹林は全国平均で森林面積の4割にあたり、里山とは別の育林手法が定まった「人工林」と呼ばれるものとのこと。

○パッと見では同じ緑の山の木々も厳密にみると異なるもので、それがまた混乱を生んでいるようです…ちなみに「WOOD JOB~神去なあなあ日常~」という映画はオススメだそうです。

 

・持続可能な里山保全に欠かせない「林業」という生業

林業が劣っているわけではなく、管理しないようになっていることが近年土砂災害や倒木などの災害につながっていると黒田先生。林業は木を育てて切って、売るというまさに農作物と同じサイクルで進めていきます。そして、本来の里山は15年~30年周期で伐採・収穫しているのですが、社会の変化により1950年代からエネルギー革命により山の資源がどんどん使われなくなり、一見緑豊かな山林も良く見るとヤブ状態。効率的で、循環する資源活用の知識や経験を持っている職人は現在80代、90代の方だけになってしまっていることも日本の林業、森林保全の大きな問題だそうです。

 

・季節外れの紅葉?

一見赤茶色に紅葉しているように見える山々も良く見るとそれは松くい虫による「松枯れ」が起こっている状態かもしれません。いまから100年ほど前、日露戦争の物資輸送の梱包で使われた松の木により北米から長崎日本に入ってきたマツノマダラカミキリと呼ばれる「松くい虫」は、30~40年近く切られずに育ってしまった木々で繁殖しやすいそうです。ですので、里山を利用されなくなった1950年代から50年ほどたち、ちょうど松くい虫が繁殖しやすい太さに育った近年、2000年ごろから全国的に松枯れによる倒木問題などが顕著に出てきた、その時期と重なります。

○江戸時代の絵図を見るとその山々に生えた木々はほとんどが幹が細めのアカマツ。(その描き込みでわかるそうです)つまり人の手が入って管理された「里山」だった証拠だそうです。

 

・「木を切る=自然破壊」「木を植える=自然回復」??誤解の多い「森林保全」

本来の里山林は、植林不要。アカマツは幹を伐った後の切り株から「萌芽更新(ほうがこうしん)」と呼ばれ、芽が生え、再生するを繰り返すことができる、とても効率的な資源だそうです。一方スギやヒノキは植林が必要なのですが、これも植林ばかりではなく、きちんと間伐も行い伐って利用していかないと、森の生態系を崩してしまうことになるそうです。そうなると、イノシシやシカなどが人の住むエリアへ出てくることで獣害被害も増えてきます。木を育てて、伐って、きちんと活用することが「健康な森林」の第一歩となるそうです。また、森林に対する誤解や無知を解消するため、黒田先生は単に教育を行うだけではなく、自治体、地域、活動団体と連携しながら最近はグリーンツーリズムやジビエ等での食とつなげる活動、伐った木の加工利用など様々な取り組みも進められています。

 

<ツボの目>

実家が仏像修復をしているもので、松やヒノキには親しみがあったのですが、確かに江戸後期の仏像は松材が、しかも細かく刻まれたものが多く、その時代は木々が不足していたと聞いていました。また逆に戦国時代や江戸初期などは木材も豊富だったようで、輿石のパーツが大きなものが多いことを思い出しました。

日本の彫刻技術は仏像彫刻を中心に木彫が発展しており、そこからも木々とのつながりが深い印象です。日本の伝統工芸を持続可能にしていくためにも、森林保全の正確な取り組みが必要と感じます。

それにしても、江戸時代の寺社仏閣周りの絵図から生えている木々が見分けられるその精巧さにビックリでした!

【神戸ソーシャルセミナーwith Climate Youth Japan 今井絵里菜氏(2019.9.18)】

今年も暑い夏が続きましたが、まだまだ暑い9月初めの神戸ソーシャルセミナーはSDG13

「気候変動」をテーマに、Climate Youth Japanの共同代表の現役神大生、そして最近Fridays For Future Kobeの活動を始め、第1回の「気候マーチ」を企画中の今井さんからお話を伺いました。

○当日は、これまで数十年環境関連の活動をされてこられたベテランの方もご参加いただきました

 

・「気候変動問題」とは

「気候変動」というと一般的には「地球温暖化」といわれる問題で、20年間様々な手立てが取り組まれていきましたが、その状況はますます進んでいるといわれています。

この要因は大きく太陽活動の変化や海洋の変動などの「自然要因」と温室効果ガスの増大や森林破壊などの「人為的要因」に分かれています。国際的には懐疑論も議論されていますが、主に後者の影響が大きいことを前提にお話しいただきました。

国際的な専門家でつくるIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change/気候変動に関する政府間パネル)の報告によると、気候変動によって引き起こされる問題は主に8つ「海面上昇・高潮」「洪水・豪雨」「インフラ(電機、医療などのサービス)機能停止」「熱中症」「食料不足」「水不足(飲料水、かんがい用水)」「海洋生態系損失(漁業への打撃)」「陸上生態系損失」があるといわれています。そして、このままの状態で2050年まで進むと2050年9月中旬には、東京で真夏日連続50日、熱帯夜は連続60日、最高気温は8月に40.8度にはなると予想されているそうです。

 

・気候変動への関心の高まりの歴史

1980年代から砂漠化や酸性雨の影響、またオゾン層の破壊の現実化、温暖化の影響が顕著になってきたことから、1992年環境と開発に関する国際連協会議(一般的には「地球サミット」「リオ・サミット」)から始まり、1997年京都議定書では先進国が温室効果ガスの削減義務を負う形になりました。しかし、その他の国の削減義務はなく、2015年COP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)のパリ協定はこの京都議定書に代わる取り組みとして、すべての締結国が産業革命以前から平均気温を2度以上上げないことを目指すこととなりました。

○国際会議にも参加されてきた今井さん。京都議定書が採択されたのはなんと1歳の時!

 

COP23,24にユースのオブザーバーとして参加された際、特に海面上昇などで一番に温暖化の影響を受けるフィジーなどの島嶼(とうしょ)諸国の呼びかけが印象的だったそうです。またCOP24では特に脱炭素の実現等実施指針が採択され、ちょうどセミナー開催の翌週に開催される「国連機構行動サミット」では核国に今後10年間で温室効果ガス排出量を45%削減、2050年までに正味ゼロ排出を達成する、具体的現実的計画を持ってくるように呼びかけられました。

○「メタン・ハイドレードによる影響は?」「日本の場合人口急減することは加味されているのか」「脱炭素社会に向けたダイインベストメントは世界的には進んでいる」など、様々な知見から熱い議論が交わされました。

 

・立ち上がる若者たち

そしてこの一年で欧州を中心にFridays For Future(未来のための金曜日)と呼ばれる学生たちを中心とした活動が注目されています。スウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんが2018年8月から始めたこの学校ストライキは、世界的な広がりを見せ、教育現場の中には、校外学習の一環として参加するところも出てきているそうです。日本では2019年2月25日に東京で始まったそうで、その時は20名ほど。2回目には中学生を含む300人ほどが参加したそうです。もともと青年環境NGOネットワークClimate Youth Japanで活動していた今井さんも9月20日の世界中で同時開催される「グローバル気候マーチ」に合わせて、神戸でもFridays For Future Kobeを立ち上げ、その活動を先導。当日は日本全国10数か所でマーチが行われました。

○マーチ当日は雨。それでもセミナー参加者も参加し、その後の活動にもつながっているようです。

 

 

<コーディネーター坪田の「ツボの目」>

「2100年アナタは何歳ですか?」

「大人たちは『未来のために勉強しなさい』と言う。

でも、今のまま気候変動が進めば、まともな未来なんてないかもしれない。たくさん勉強して気候変動の危機を訴えても政府はまったく声に耳を貸さないのなら、どうして一生懸命勉強していられる?」

これはFridays For Futureの学校ストライキや気候マーチ(デモとは言わないようです)に参加する子どもたちの声だそうです。人生100年時代といわれるなかで、80年後今の子どもたちは十分その世界に生きている可能性がある。だからこそ、気候対策に真剣に取り組まない大人たちに子どもたちから行動を起こしているようにも見えます。なかには、学校が校外学習の一環としてマーチに参加するところも出てきているようです。

そう考えると、自分の世代よりも若い10代20代のユースたちがより自分事として声を上げることに納得します。まずは世界を含めた最先端の情報収集…までは追い付かなくとも、マイ箸、マイバックをできるだけ使ってみたり、普段の買い物にプラスチックが使われているものを避けたり、有機栽培の食品を選んでみたりとできることから行動に移していきたいです。